教育新時代:これからの子どもたちはなにを学ぶか(7)


やまじ もとひろ

高校での留学はいま

「教育新時代」と題して、このシリーズでは国内の教育の変わりゆく姿をお伝えしています。

とくに注目しているのは、グローバル教育振興への流れから起きている中学・高校の英語教育の変貌です。

これは、大学入試での外国語(英語)の出題内容の変化に影響を受けています。これまでの大学入試センター試験の英語では、「読む」「聞く」の2技能が問われてきましたが、来春から名称も改められる「大学入学共通テスト」では、「話す」「書く」も問われることになり言語教育で言う4技能すべての技量が必要になっていました。実際には拙速からの綻びが明らかとなり、4技能すべてを問う英語入試は延期されることとなりましたが、すでに促されてきた「大学入試改革に触発された新しい英語教育」の流れが滞ることはありません。

ここまで新しい英語教育のうち、英語能力の獲得について特徴的なメソッドを取り入れてきた学校について取り上げてきました。

前回まではダブルディプロマ校に焦点をあててきましたが、別のやり方で英語の実力を伸ばしてきた学校があります。それが、ダブルディプロマ校に先駆けて名乗りをあげていた「長期留学校」です。長期留学校では高校生活の一定期間(約1年間)を、英語圏の海外校で過ごすシステムを採用しています。

海外の学校の卒業資格も得て、大学入試で帰国生同等の優遇を得るダブルディプロマ校の卒業生とは違いますが、1年近くを英語圏の国にある学校で学ぶことで英語の実力を確実に伸ばして帰国し、英語のスコアを武器に大学入試に挑もうとするものです。

もちろん、大学入試だけを目的に留学するわけではありません。帰国したとき精神的に成長し「大人になった子どもを目の当たりにした」と保護者は口を揃えます。

文部科学省も高校生の留学を後押ししている。

 

大阪で成果をあげた長期留学校

高校での長期留学は、かつては帰国後に留年せざるを得ないことがネックとなっていました。しかし、いまでは海外の高校での履修を国内の高校での履修とみなし、36単位までを上限に認めることになっています(2010年~)。

国内の高校を卒業するためには最低取得単位数74単位が必要ですが、学校が1年間の留学先の単位を36単位まで換算で認めてくれるなら、帰国して学校に戻っても、前と同じ友人がいる同じ学年に戻ることができます。学年を落とさずに進級することができるのです。

これには国の後押しもありました。官民協働のもとで行っている留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」で、東京オリンピックの開催が予定されていた今年までに、高校生の海外留学(短期留学を含む)を10年間で3万人から6万人に倍増するという取り組みが行われています。その一環として高校で1年間留学するとネックとなっていた留年問題を解決すべく、校長の裁量に任されてはいますが国内の単位を認めることにしたのです。

高校生の長期留学を足踏みさせる問題はほかにもありました。

国内で大きな壁となっていたのが大学入試です。長期留学後に帰国しても大学入試までの時間が限られていたら、受験勉強が間に合わず思うような大学に進めないという心配です。

また、受験勉強をしようにもうまく進まない現実もありました。前と同じ友人がいる同じ学年に戻ることができるのはうれしいことですが、クラスの友人の勉強はずっと進んでいます。仕方なく進学塾で1人、半年前、あるいは1年前の勉強から取り組む孤独な作業が待っていたのです。

留学による英語でのアドバンテージはあったにせよ、他科目での孤独な闘いはつらいものでした。

そのため、あえて留年を選ぶ生徒もいました。留年を選択すれば、学年が1つ下がることで留学前の同級生と一緒に勉強できなくなる点や、「留年」によくない印象を持っている人もいるという心配もありますが、帰国後の日本の高校生活や大学受験の心配をせず、留学生活を存分に満喫できるというメリットがあります。

せっかく海外に留学できたのですから、高校留学に行ったからこそできる体験を最大限楽しむことを選ぶわけです。

どちらがよい、とは一概には言えませんが、ただ、留年せずにこれらの課題を一気に解決する策があることに気づいた学校がありました。

それが大阪にある大阪薫英女学院高校です。

そこには「クラスまるごと」というキーワードがありました。

[つづく]

やまじ もとひろ
教育関連書籍、進学情報誌などを発刊する出版社代表。
中学受験、高校受験の情報にくわしい。

 


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