アート&バイブル 63:聖霊降臨


ジャン・レストゥー(2世)『聖霊降臨』

稲川保明(カトリック東京教区司祭)

17世紀末、フランスのルーアンに生まれたジャン・レストゥー(Jean Restout, 生没年1692~1768年)は、画家の一族出身でした。父も同じ名で、父は1世、彼は2世と区別されます。彼は、ロココ時代に バロック的な個性的な絵画を描きました。1717年ローマ賞というものを受け、留学資格を受けますが、ローマには行かず、パリにとどまり、王立絵画彫刻アカデミーの会員として画業を続け、のちには教授、学長にまでなります。

当時のフランスにおける宗教画の第一人者として、教会や王宮などからおびただしい注文を受けました。創作意欲が旺盛であったレストゥーは、荘厳な建築物の天井画や壁画に大人数の人物を配した場面をうまくまとめる技量の持ち主でした。この作品も、縦4.65m×横778mという大きさであり、サン・ドニ修道院の食堂にあったものですが、革命の際にリヨンのカテドラルに移され、現在はルーブル美術館に置かれています。

フランス革命の際には革命軍たちは王や貴族、そして上流社会と結びついていた教会を激しく批判し、多くの教会堂を破壊したり、聖職者や修道女を迫害したりしました。一般的にフランス革命は、圧制者を排除した正義の革命のように思われがちですが、実は文化的な破壊行為が数多く行われた時代でもあったのです。

 

【鑑賞のポイント】

ジャン・レストゥー(2世)『聖霊降臨』(1732年作、ルーブル美術館)

(1)イエス・キリストの復活後、五旬祭の日に、聖母マリアと弟子たちが祈っていた家に「突然、激しい風が吹いて来るような音が天から聞こえ、彼らが座っていた家中に響いた。そして、炎のような舌が分かれ分かれに現れ、一人一人の上にとどまった。すると、一同は聖霊に満たされ、『霊』が語らせるままに、ほかの国々の言葉で話しだした」(使徒言行録2:1~4)という場面が描かれています。まるで空襲の時に焼夷弾が降って来たかのように、炎のような舌が各自の頭の上に下って来ています。

(2)聖母マリアは、毅然とした姿で立っており、両手を胸の前に合わせ、何の恐れもなく、天を見上げています。

(3)弟子たちは、イエスから約束されていたにもかかわらず、ある者は驚き、ある者は恐怖しながら頭を伏しています。聖霊降臨の出来事のダイナミックな様子を迫力ある筆致で描いています。

(4)マリアのそばには3人の女性が描かれています。このうちの2人は聖霊を受けたマリアに恭しく尊敬を表す仕草をし、手を合わせて祈っているような姿で描かれています。

 


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