信仰とはどういうものなのか、言葉で表せといわれても困ることが多々あります。それは人によってその宗教を信仰する立場や考えが違うからかもしれません。その宗教にとって、一生に一度は訪れたい場所もあります。カトリック信者にとっては、バチカンだけでなく、さまざまな場所に巡礼地があります。今日ご紹介する映画は、チベット人にとってもっとも大切な場所、ラサへの巡礼に関する映画です。2017年3月にご紹介した『草原の河』を撮ったチベット人監督ソンタルジャ氏の新作映画『巡礼の約束』です。
山間の村でウォマ(ニマソンソン)は、夫のロルジェ(ヨンジャンジャ)、その父と3人で暮らしていました。病院で医師に告げられたことを夫には隠し、「どこも悪くなかった」と話しますが、突然「五体投地でラサに巡礼にいく」といいだします。半年以上かかる巡礼の旅に当初は反対していたロルジェですが、ウォマの固い決心を知り、受け入れることにします。
旅に出る前にウォマは実家を訪ねます。そこには亡くなった前夫との息子ノルウ(スィチョクジャ)が暮らしています。ノルウは祖父母のもとに預けたままの母親ウォマにわだかまりがあり、顔を見せようとしません。
村の娘2人がサポート役になり、ウォマの巡礼は始まります。サポート役の娘たちが近くの町にいって戻ってこなくなっても、ウォマは巡礼を続けていたある日、ロルジェがバイクを飛ばして追ってきます。妻が病気を隠して巡礼に出たことを知ったロルジェは、心配のあまり旅をやめさせようとしますが、ウォマは聞き入れません。たった一人になって困難な巡礼を続けると言い張るウォマに対し、ロルジェは腹を立て、「勝手にしろ」と走り去っていきます。
そんなウォルマのもとに弟がノウルを連れてやってきます。母に会いたいとやってきたノウルですが、素直に母への思いを口にできません。そんなノウルをウォマは抱きしめます。そこにロルジェが戻ってきます。ノルウを連れて帰るつもりの弟でしたが、「一緒にラサまで行く」といって聞かないノウルを残し、帰っていきます。そして、ウォマとロルジェ、ノウルの3人での旅が始まります。ウォマの体は衰弱していき、遂に倒れてしまいます。自分の命の火が消えかかっていることを覚悟したウォマは、ノウルに前夫の遺灰でつくった仏像(ツァツァ)の入った箱を「お前がラサに持って行って」と託します。
土地の男の助けを借りて、ウォマを葬り、寺で供養します。残された2人は、その後どうするのかは皆さん観てのお楽しみです。なさぬ仲の2人に和解はあるのか、ラサへは行くのか、そこには何が待っているのか、ぜひ皆さんの目で確かめてください。
以前、『ラサへの歩き方 祈りの2400km』という映画がありましたが、ラサへの巡礼は苛酷です。五体投地という方法で、自らの身を投げ出し、祈りつつ歩む道は、本当に信仰がなければできないことです。なぜ、ウォマは命が短いことを悟ってもなお、その苛酷な旅を成し遂げようとしたのか、そこには祈りと約束があります。ウォマとその家族に起こる愛と信頼の物語をぜひ映画館でご覧ください。
(中村恵里香/ライター)
2020年2月8日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー
公式ホームページ:http://moviola.jp/junrei_yakusoku/
監督:ソンタルジャ/プロデューサー:ヨンジョンジャ/脚本:タシダワ、ソンタルジャ
出演:ヨンジョンジャ、ニマソンソン、スィチョクジャ
2018年/中国語題:阿拉姜色/英語題:Ala Changso/中国映画/109分
配給:ムヴィオラ
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