アメリカの『フォーチュン』誌に億万長者と認定されたジャン・ポール・ゲティの孫ジョン・ポール・ゲティ3世が誘拐された実在の事件をリドリー・スコット監督が映画化した作品『ゲティ家の身代金』をご紹介します。
1973年留学先のローマで夜の道を歩く17歳の青年ジョン・ポール・ゲティ3世(チャーリー・プラマー)が何者かに拉致されます。誘拐の報はすぐさま祖父ジャン・ポール・ゲティ(クリストファー・プラマー)のもとに知らされます。祖父ジャン・ポール・ゲティは誰もが不可能だといった中東から石油を輸入して「ゲティ・オ
イル社」を設立し、世界でも有数な大富豪として知られている人物です。誘拐犯は身代金として1700万ドルを要求してきますが、断固として拒否します。
身代金拒否の背景には、息子との関係が絡んでいます。長男である息子は、ゲティ・オイル社で働いていましたが、ドラッグに溺れ、妻ゲイル(ミシェル・ウィリアムズ)とも離婚し、長男としての役割を果たしていなかったからでした。そして、身代金要求に応じれば、他の孫も標的にされる恐れがあると釈明もします。
一方で、自分のもとで働く元CIA職員フレッチャー・チェイス(マーク・ウォールバーグ)を呼び寄せ、親権者である母親ゲイルのもとに向かわせ、誘拐犯との交渉に当たらせます。
誘拐されたジョンは、南イタリアのカラブリア州の人里離れたアジトに監禁されていました。誘拐犯のリーダー格チンクアンタ(ロマン・デュリス)は、身代金を払わないと指を切断すると脅母親宛に手紙を書かせます。
ジョンの行方はわからないまま、身代金を出そうとしないゲティに対し、ゲイルはいらだちを募らせます。そうして、ジョンがかつて偽装誘拐を企て、祖父から身代金をせしめる計画を冗談半分で話していたと友人が証言したことにゲティはますます半信半疑となります。
交渉がなかなか進まないことに焦り始める中、ジョンに顔を見られた誘拐犯の一人がジョンに向けて発砲します。その直後、誘拐されたときに使われた車が発見され、その中に遺体が発見されます。遺体を確認しにきたゲイルは、息子ジョンではない遺体にホッと胸を撫で下ろします。誘拐犯の遺体と確定した警察は、その出身地を割り出し、アジトを襲撃します。銃撃戦の末、チンクアンタは、ジョンをつれ逃げ出し、マフィアと合流します。
ジョンは無事帰ってくるのかはぜひ劇場で観てください。この映画はもちろんサスペンスです。ちょっと過激なシーンもありますが、その裏に隠されている物語がたくさんあります。ゲイルを演じたミシェル・ウィリアムズは、「サスペンスに満ちた映画ではあるが、同時にフェミニズム映画でもあると思う」と語っています。男社会の中で、息子を救いたい一心で、あらゆる能力を使い、周囲と対等になろうとしますが、女性ゆえに軽んじられ、過小評価されるシーンがたくさんちりばめられています。
また、監督のリドリー・スコットは「ゲティは、富の虚しさ、それに付随しうるダメージを理解し、明確に自覚していたんだ。お金でなく息子に対する愛情に突き動かされてるゲイルの鋼鉄の意志と交錯させるのが面白かった」と語っています。
サスペンスの面白さに目を奪われがちですが、家族とは何か、その愛情表現はどのようなものなのか、この映画の突き詰めていくテーマの広さは見る人を魅了することでしょう。
(中村恵里香/ライター)
監督:リドリー・スコット/脚本:デヴィッド・スカルパ/原作:ジョン・ピアースン「ゲティ家の身代金」(ハーパーコリンズ・ジャパン刊)
キャスト:ミシェル・ウィリアムズ、クリストファー・プラマー、ティモシー・ハットン、ロマン・デュリス、チャーリー・プラマー、マーク・ウォールバーグ
原題・英題 :All the Money in the World
配給:KADOKAWA
コピーライト :©2017 ALL THE MONEY US, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
2018年5月25日TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
公式サイト :http://getty-ransom.jp