スペイン巡礼の道——エル・カミーノを歩く 41


古谷章・古谷雅子

5月31日(水)  ビジャレンテ~レオン

歩行距離:13km
行動時間:3時間15分

さていよいよ今回のゴール、標高838mのレオン到着だ。トリオ川に架かる橋プエンテ・カストロを渡ると歓迎の小さな案内所があり、係員がスタンプを押したり地図を配ったり、アルベルゲの手配を手伝ったりしていた。私たちは     大聖堂のそばに宿が決まっていたので黄色い矢印と歩道に埋め込まれたホタテ貝のレリーフを辿りながらセントロ(旧市街中心)に向かった。人口15万人の都会だ、入り口から中心地までかなり歩く。

そもそも2015年にエル・カミーノの最後の300kmだけを体験するつもりで歩き始めたのはここレオンからだった。その時はマドリッドからバスで到着したのが午後で、アルベルゲを探し、翌日の準備をしてから街に出たものの、ざっと街並みと近代のガウディ設計のカサ・デ・ロス・ボティネスを見ただけ、翌朝は暗いうちから西に向かった。だから巡礼路上で最も充実した施設で栄えたという中世からの古都については殆ど知らなかった。

キリスト教徒最初の王国であるアストゥリアスの首都が10世紀にレオンに遷都されレオン王国となり、レコンキスタに対するイスラムの反攻に備えるために城壁をめぐらした。その城壁は今も旧市街を部分的に取り囲んでいる。その中に歴史の多重堆積を表す魅力的な場所がたくさんある。今回はそれらのいくつかを見るつもりで11時前に予約済みのオスタルに行き、荷物を預かってもらった。しかし見物前にしなければならないことは、翌日のサンティアゴ・デ・コンポステーラ行きの鉄道の手配である。ベルネスガ川を渡って新市街のレオン駅に行って見ると、伝統建築の旧駅舎が閉鎖されて機能的だが味のない新駅舎に代わっていた。鉄道好きの章もちょっとがっかりしていた。

旧スペイン国鉄は2005年に解体し、スペイン国鉄(略称:renfe)とスペイン鉄道インフラ管理機構(略称:adif)の2つの会社になった。renfeは輸送、販売など運営を担当、adifは鉄道のインフラ(路線や駅など)を担当ということで、新駅舎外壁にはadifと書かれている。窓口運営はrenfeだ。日にち、時間、下車駅をメモした紙をだし、無事希望通り翌日午後発の切符が買えた。近くのバルで軽く到着祝いをして宿に戻った。この路地一帯は聖堂と同様ローマ時代の遺構の上だ。宿の名称も「カスコ・アンティゴ(旧住宅街)」で、地下の自炊キッチンの床は一部が透明になっていて遺構が見られる。外観は中世の路地だが建物内部は現代的に改装されている。表通りに出れば大きなスーパーマーケットもあり便利至極。

見る時間も限られているので、レオンではサン・イシドロ教会(ロマネスク)、大聖堂(ゴシック)、旧サン・マルコス修道院(ルネッサンス)の三つを見ることにした。すべて宿から徒歩圏内だ。教会は4時まで休憩に入ってしまったので、今は5つ星パラドールとなったサン・マルコス修道院から始めた。荘厳華麗な建物は16世紀に建てられ完成は18世紀という。もともとは12世紀にサンティアゴ騎士団の本拠で巡礼の救護所でもあったそうだ。正面100mにも及ぶファサード中央に「マタモロス(モーロ人殺しのサンティアゴ)」が彫られ、たくさんのホタテ貝の装飾とともにエル・カミーノの中間宿駅であったことを誇っている。一昨年はアストルガに向かって払暁前の暗い中この前を通り過ぎたのだった。

一休みして、一番見たかったサン・イシドロ教会へ。ここは聖イシドロ(6~7世紀、セビージャ大司教としてスペインのカトリック教会の基盤を作ったという)が祀られている。ガイドツアーに参加しないと内部が見られない。スペイン語はハナから諦め、消去法で英語のツアーに申し込んだ(一人€5)。10人ほどのグループだ。11世紀にロマネスク・モサラベ様式で建造されたがその後改修が加わり原形は正面入り口にのみ見られる。回廊の雰囲気も気にいった。しかし圧巻は同時代ここに建てられたパンテオン・レアル(レオン王家の霊廟)で内部は当時のフレスコ画で埋め尽くされている。宗教的な故事のみならず民衆の労働も描かれていて題材の面白さにも強い感銘を受けた。

ガイドツアーでかなり聴き取りにエネルギーを使い疲れ果てたのと、感性が限界に達したような気がして大聖堂は翌日の午前中に行くことにした。スーパーで翌朝用食品を買い、宿に戻って自炊キッチンの冷蔵庫に入れておく。一休みして、夕食は街中で€9.9の定食。パスタ、卵のミートソースかけポテト添え、フルーツサラダ。卵の本体が目玉焼きだったのでちょっと意外だったが、スペインでは単純な卵料理を侮るなかれ。ミートソースのしっかりした味に感心した。

今日はこれまでの旅と合わせて「フランス人の道」800kmを完歩したのだからもう少し贅沢をしてもよいのだが、私たちのエル・カミーノ歩きにはまだ宿題が3つも残っているのだ。それを果たしに明日はサンティアゴ・デ・コンポステーラを再訪する。決して単調でも退屈でもなかったブルゴス~レオン間の楽しい経験を反芻しながらの鉄道旅だ。

 


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