「浦上四番崩れ/浦上キリシタン流配事件」を知るために……図書案内


「浦上四番崩れ」は、徳川幕府のキリシタン禁制下にあった「崩れ」、すなわち潜伏キリシタンの存在が発覚して検挙された一連の事件の四番目の出来事。一番崩れは1790年(寛政2年)、二番崩れは1842年(天保13年)、三番崩れは1856年(安政3年)にありました。四番崩れは、それまでと違って、1865年3月17日の「信徒発見」以降の中で、自ら信仰を表明しことに始まる検挙事件で、キリシタン禁教政策を踏襲した明治新政府による「浦上キリシタン流配事件」に発展していきます。いわば、幕末・明治初期の一貫した浦上キリシタン迫害事件とも呼べるものであり、またキリシタン禁制が解かれるきっかけとなった出来事として、そちらに焦点を合わせる書物の例なども見られます。

 

1.古典的著作

キリシタン研究史上の中で、先駆的にこの歴史的出来事を扱った書物を紹介します。

(1)姉崎正治『切支丹禁制の終末』

姉崎正治(1873年~1949年)は日本の宗教学の祖といえる人で、1905年東京帝国大学で初めて宗教学講座の担当教授となり、1930年日本宗教学会を設立しました。キリシタン史研究でも主要著作5書を1925年~1932年に出版しています。『切支丹禁制の終末』は1926年、同文館より刊行(複製本 国書刊行会 1976年)。

(2)浦川和三郎の著作

この出来事についての研究の先覚者となったのは浦川和三郎(1876年~1955年)です。1906年長崎で司祭叙階。長崎公教神学校教授・校長を歴任後、1942年から54年まで仙台司教だった方。キリシタン研究家として名高いだけでなく、教理・典礼・霊性に関する著作は100 点に及ぶ著作家でした。浦上のキリシタンのこの出来事については次の3タイトルが重要です。

『切支丹の復活』前後篇2巻(日本カトリック刊行会 1927-28年;複製本 国書刊行会 1979年)

『旅の話』(長崎公教神学校 1938年)…『浦上キリシタン史』別巻として先行出版されたもの

『浦上キリシタン史』(全国書房 1943年;複製本 国書刊行会 1973年)…上記『切支丹の復活』の続編にあたる。

浦上キリシタンは、この迫害、流配を「旅」と呼びました。その旅の体験談を、浦川師は『切支丹の復活』に収録していましたが、大部の書で、高価でもあったため、体験談のところだけを抜粋し、廉価な普及版とし、信仰教育に役立つものとして刊行されたのが『旅の話』で、それは、「浦上信徒放免帰国65年記念出版」と位置づけられていました(同書「はしがき」より)。「放免帰国」が1873年であったため、1938年はその65周年でした。

(3)片岡弥吉の著作

浦川和三郎の『旅の話』の編集作業に関与した片岡弥吉(1908年~1980年)は、純心女子学園(純心女子大学の前身)で長く教鞭をとったキリシタン史研究家。浦川和三郎の遺志を次いで、幕末明治キリシタン史の研究を引き継ぎ、ド・ロ神父の功績を掘り起こしたことでも知られています。浦上キリシタン事件に関しては、1964年『浦上四番崩れ』(筑摩書房)が主著。この書はのちに『日本キリシタン殉教史』(時事通信社 1979年)の第4部として「復活と大弾圧」の題のもと収められています。この書は現在「片岡弥吉全集」1『日本キリシタン殉教史』(智書房 2010年)として再刊されています。

(4)マルナス『日本キリスト教復活史』

1985年に邦訳出版されたフランシスク・マルナス著『日本キリスト教復活史』(久野桂一郎訳、みすず書房)も、第3部「最後の迫害」で浦上キリシタン迫害事件を扱っています。フランス語の原著は、1896年に発行されたものです。マルナス(1859年~1932年)は、パリ外国宣教会会員として、三度(1889年、1893年、1908年)来日し、キリシタン史に関する資料を集めて、1921年にはフランス、クレルモン・フェラン司教になった人物。パリ外国宣教会による日本への宣教の始まりから大日本帝国憲法発布と大司教区制度設立までを叙述するものです。

(以上、人物情報は『新カトリック大事典』を参考にしました)

 

2.最近の研究書

最近は、この出来事およびこれに対する先行研究を根本的に見つめ直そうという研究書が現れています。

(5)家近良樹『浦上キリシタン流配事件 キリスト教解禁への道』(吉川弘文館 1998年)

(6)安高啓明『浦上四番崩れ 長崎・天草禁教史の新解釈』(長崎文献社 2016年)

それぞれ、先行する研究に対する批判・検証の意図をもっているもので議論的な内容も含まれますが、最新刊の安高氏の著作は、見出しや写真も多く、近づきやすい体裁をしています。

※お薦め:「浦上四番崩れ-浦上キリシタン流配事件」の経緯を概観するためには、(3)の片岡弥吉の『日本キリシタン殉教史』第4部と(6)の安高啓明『浦上四番崩れ』を併せて読むのがよいのではないかと思われます。その上で他の著作へと広げていくと有意義でしょう。

 

3.流配先各地を取り上げる書

浦上キリシタンの流配(分配預託)先の地域ごとにこの出来事を取り上げた書もあります。

(7)永井隆『乙女峠 津和野の殉教者物語』(中央出版社 1952年)

(8)池田敏雄『津和野への旅 長崎キリシタンの受難』(中央出版社 1992年)

(9)三俣俊二『金沢・大聖寺・富山に流された浦上キリシタン』(聖母の騎士社 2000年)

(10)三俣俊二『姫路・岡山・鳥取に流された浦上キリシタン』(聖母の騎士社 2002年)

(11)三俣俊二『和歌山・名古屋に流された浦上キリシタン』(聖母の騎士社 2004年)

(12)三俣俊二『津・大和郡山に流された浦上キリシタン』(聖母の騎士社 2005年)

 

4.カトリック浦上教会の出版書

2015年は信徒発見150年の年、2017年は浦上四番崩れ150年の年として、それぞれ大きな記念行事・ミサが行われています。2005年の信徒発見140年のとき、上記(3)浦川和三郎の『旅の話』が再編集され、出版されています。『「旅」の話 -浦上四番崩れ-』信徒発見140年記念出版(カトリック浦上教会 2005年)。また2012年には、カトリック浦上教会歴史委員会編で『浦上キリシタン資料:四番崩れの際に没収された教理書・教会暦など』という資料が出版されています。これらは一般には手にしにくいものですが、研究は現在進行中であることを窺わせる貴重な研究・出版といえます。

(まとめ  石井祥裕/AMOR編集部)


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

eighteen − six =