マリアのlet it be


中学3年生の「宗教」で「聖母マリア」を読む

マリアを取りあげる授業はビートルズ「Let it be」を聞くことからはじめる。

「この歌知っている人?」

ときくとほとんどが手を挙げる。いつになっても不朽の名作だと思う。

「じゃ、Let it be ってどういう意味かな?」

「『なるようになるさ』という意味じゃないの?」

「『あるがままに』だっていうのを聞いたことがあるよ」

「ここに和英両訳の歌詞付きのカラオケ映像があるので、見てみよう」

「これは『あるがままに』だよね。でも他のセリフに気がついた? 『聖母マリアがやってきて知恵の言葉をささやいた』っていうところ。この言葉は聖書に出てくる聖母マリアの言葉なんだよね。しかも『知恵の言葉』だという。で、そこの所を読んでみよう。ルカ1章27節~38節だ。」

 

……………{朗読省略}……………

 

「この中に『Let it be』があるのだけれどどこかわかるかな?」

「え、わからな~い!」

「ヒントはマリアの言葉だ」

「そうするとここかな?『マリアは言った。「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように。」そこで、天使は去って行った。』でもここには『あるがままに』も『なるようになるさ』も出てこないよ」
「じゃあ、英語訳をみてみよう。英語訳はこうなるんだ。」

And Mary said, “I am the handmaid of the Lord; let it be to me according to your word.”

.
「ほらここにあるだろう? でもね、マリアの言葉は『let it be to me according to your word』なんだけれど”Let it be”の訳では『to me according to your word』をすっとばしちゃったんだ」

「ほんとだ。『おことばどおりこの身になりますように』というのと『なるようになるさ』や『あるがままに』ではまったく違うよね。ビートルズはどっちのつもりでうたっていたんだろうか?」

「ほんとだ。おもしろ〜い!」

「ところでマリアはどのようなところでこの応えをしたんだろうか? ここは有名な「受胎告知」とか「お告げ」といわれる場面だけれど。誰か説明して」

「ある日、天使ガブリエルがマリアの前に現れて、『あなたは間もなく男の子を産む。その子をイエスと名付けなさい』といわれる。まだ結婚もしていないのに唐突にそういわれたマリアはビックリしちゃって『そんなことはありえない。まだ結婚もしていないのに』という。すると天使は『あなたは聖霊によって身籠もる。神さまにできなことはない』っていう。その応えが『わたしは主のはしためです。お言葉どおりこの身に成りますように。』というわけです」

「そうだね。このマリアの応えについてどう思う。」

ダンテ・ガブリエル・ロセッティ『受胎告知』(Ecce Ancilla Domini)、テイト・ミュージアム(ロンドン)

「う〜ん。なんといえばいいのかな? 大胆というか勇気があるというか。」

「信仰が篤いというか、神さまにまかせ切っちゃっている。」

「マリアはこのお告げをことわることもできたと思う。私にはとてもそんなことはできないっていってね。でも彼女はことわらなかった。私はこのマリアの応答を「神さまのいわれることだからなんとかなるさ」というように訳すのが一番好きだな。そうすると「なるようになるさ」っていうのに近いかな。」

「この場面、昔から多くの画家によってえがかれている。〈受胎告知 絵画〉で検索するとたくさんでて来るけれど、どの絵が好きかな? フラ・アンジェリコ、レオナルド・ダビンチなどなど。マリアがおびえている表情をしているのもあるね。これについてはまた別のチャンスでふれたいけれど、今日はひとつだけ紹介しよう。

ダンテ・ガブリエル・ロセッティ(1828~82)の『Ecce Ancilla Domini』という1850年の作品だ。このマリアのモデルは妹のクリスチーナ・ロゼッティだといわれ、天使は自分自身(彼の名はガブリエル)だとされている。クリスチーナ・ロゼッティという名を聞いたことがあるだろうか? 小学唱歌の「た~れかか~ぜをみ~たでしょう♪」の童謡の作詞家(訳:西条八十、作曲草川信)として知られる。この『かぜ』の歌(クリスチーナ・ロゼッティ「かぜ」はヨハネ3章8節を歌った歌なんだ。」

「トリビア〜!」

土屋至(元清泉女子大学講師 「宗教科教育法」担当)


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