アート&バイブル 24:聖ルカに姿を現した聖母子/玉座に座る聖母子とマタイ


アンニーバレ・カラッチ『聖ルカに姿を現した聖母子』『玉座に座る聖母子とマタイ』

稲川保明(カトリック東京教区司祭)

アンニーバレ・カラッチ(アート&バイブル20参照)は『玉座に座る聖母子とマタイ』(画像2)とともに、ルカ福音史家(祝日10月18日)をモチーフとした絵画(画像1)も描いています。この作品は現在ルーブル美術館に所蔵されていますが、元来は教会や修道院の聖堂に置かれていたものと思われます。ルカ福音史家と聖母子には伝説があります。ルカは芸術家の福音書とも呼ばれ、ルカ福音書に記されているイエスの生涯についての記事が多くの芸術家の作品に描かれました。「受胎告知」はその最も典型的な例です。また、ルカは最初に聖母の姿を描いたともいわれており、そのイコンがローマのサンタ・マリア・マジョーレ教会に保存されています。

画像1『聖ルカに姿を現した聖母子』(1592年、油彩、401×226cm、パリ、ルーブル美術館所蔵)

ルカ福音書の冒頭には他の福音書にはない「献呈の辞(ことば)」があります。

「わたしたちの間で実現した事柄について、最初から目撃して御言葉のために働いた人々がわたしたちに伝えたとおりに、物語を書き連ねようと、多くの人々が既に手を着けています。そこで、敬愛するテオフィロさま、わたしもすべての事を初めから詳しく調べていますので、順序正しく書いてあなたに献呈するのがよいと思いました。お受けになった教えが確実なものであることを、よく分かっていただきたいのであります」(ルカ1:1~4)

このように、テオフィロ(ギリシア語で「神を愛する人・神によって愛されている人」という意味を持つ名前)という人物にこの福音書を捧げていますが、初代教会には、このテオフィロという人物にあたる人が見当たりません。つまり特定の個人というよりは、「神を愛するすべての人=神によって愛されているすべての人」へ、この福音書を献呈するという意味なのです。

 

 【『聖ルカに姿を現した聖母子』の鑑賞のポイント】

(1)地上にはルカが岩の上で腰かけています。すると空に聖母子の姿が見えるのです。聖母子の周りには書物のようなものを持っている人物もおり、これらは「わたしたちの間で実現した出来事について、物語を書き連ねようと手を着けた多くの人々」を表しているのではないかと思います。

(2)ルカは空を見上げるとともに右手で地面を指さしています。そこには羊皮紙のような巻き物が広げられており、「福音を書きなさいとおっしゃられるのですか?」と問いかけているようにも見えます。また羊皮紙とともに絵筆や絵の具なども置かれており、ルカが聖母の絵を描いたという伝説を表しています。またこの絵は後で紹介するようにマタイの絵が「青」を主調としているのに比べ、「赤」がメインに用いられています。

(3)そしてもう一人の人物はアレキサンドリアの聖カタリナです。ローマ皇帝の求婚を断った彼女のキリスト教信仰を捨てさせようと50人の学者が議論を仕掛けますが、彼女はそのすべてに答え、反論し、かえって全員を改宗させたという伝説があります。その彼女の殉教のシンボルとして、壊れた車輪が彼女の足元にあります。

 

画像2『玉座に座る聖母子と聖マタイ』(1588年、油彩、384×255cm、ドレスデン美術館所蔵)

【『玉座に座る聖母子とマタイ』の鑑賞のポイント】

(1)玉座に座る聖母子の傍らにマタイが書板(羊皮紙を広げて張り付けたもの)を持ち、また片手にはペン、片手にはインク壺をもって聖母子を見つめています。マタイの足元にはこちらを向いた少年が地に身を横たえていますが、この少年(天使)はマタイ福音史家のシンボルです。マルコはライオン、ルカは牛、ヨハネは鷲がシンボルです。マタイ福音書は新約聖書の1番目に置かれており、旧約聖書とのつながりが特徴で、ラテン語典礼の時代には教会の福音書と呼ばれるほどミサの福音朗読に多く用いられていました。

(2)幼子イエスの足に接吻しているのはアッシジのフランシスコです。彼が自分の胸の前においている手のひらには聖痕がみえることからフランシスコとわかります。また、彼の修道服には肩のあたりに大きな継ぎが当てられているなど工夫されています。そして上半身をむき出しにして、幼子イエスを指示しているのは洗礼者ヨハネで、「見よ、神の小羊だ!」と口を開いているようにも見えます。

 

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