ごっこ


今年観た日本映画はなぜか家族をテーマにしたものが多いように感じます。今なぜ家族なのかという問いにすぐには答えられませんが、最も印象的だった映画をぜひご紹介したいと思います。その映画は『ごっこ』です。

アパートの1階に雨戸も開けず、暗い部屋に引きこもっている40歳目前の男城宮(千原ジュニア)は、近所の子どもたちにニートとしてからかわれ、その声に雨戸を開けます。子どもたちはさっと逃げてしまいますが、その窓から向かいの2階に顔をケガした少女ヨヨ子(平尾奈々花)と目が合います。目を離すことができず、ヨヨ子に近づくと、城宮に対してヨヨ子は「パパやん」と呼びかけます。雨樋を伝ってヨヨ子を連れ出し、大阪の寂れた帽子店に連れ帰ってしまいます。そこには父(秋野大作)と近所の男(石橋蓮司)がいました。これから自殺するという父から「子どもがおるというのは、お前が大人になるチャンスだ」生活の心配はいらないといわれ、父はそのまま男と出て行きます。ここから奇妙な親子の生活が始まります。十数年ぶりに実家に城宮が帰ってきたことを知った幼馴染みのマチ(優香)は、この2人の関係に疑問を持ち、何くれとなく近づいてきます。

父がいなくなって、働きもせずなぜ生活ができるのか、なぜヨヨ子はケガをしていたのか、城宮はなぜニートになったのか、さまざまな疑問が浮かび上がってきますが、ストーリーをご説明するのはここまでにして、皆さんにぜひ見ていただきたいと思います。そこには家族とは何か、家族愛とはどういったものかを如実に表しています。そして想像もしない展開が待っています。

そして、この映画に出演している役者にはすごく魅力があります。実をいうと、お笑い芸人が主役の映画なんてとまったく期待せずに観に行ったのですが、主役の千原ジュニアの演技は本当に圧倒されます。

この映画の監督・熊澤尚人さんは、「生きるのがへたくそな、引きこもりでニートの主人公・城宮と、虐待を受けた幼女ヨヨ子――物語の中心のこの二人のキャラクターが大変魅力的で、ものすごいインパクトを受けたことを今でも覚えています。かねてから今の社会の不寛容さを題材にした作品を作りたいと思っていた私は、育児放棄、年金不正受給など、多くの社会問題を扱ったこの作品を、ぜひ映画化したいと思いました」と語っています。

この映画、実は製作されてから2年ほど眠っていた作品だそうです。撮影されたのは、2015年10月下旬と2016年1月、合わせて14日間で作られた作品だそうです。とてもそんな短期間で撮影された作品とは思えないほどのできばえです。この映画、原作は漫画だそうですが、残念ながら原作は読んでいません。その原作者・小路啓之氏は2016年10月に亡くなってしまったそうです。

今、日本には製作されたものの公開されていない映画がたくさんあるといいます。この作品を観て、眠っている作品にはきっといいものがたくさんあるのだろうと考えてしまいました。

10月20日(土)〜 ユーロスペースほか全国順次ロードショー

監督:熊澤尚人/脚本:熊澤尚人、高橋泉/製作:前田茂司/原作:「ごっこ」小路啓之(集英社ジャンプコミックス デラックス刊)

キャスト
千原ジュニア、優香、平尾奈々花、ちすん、清水富美加、秋野大作、石橋蓮司

©小路啓之/©集英社 ©2017楽映舎/タイムズ イン/WAJA
配給:パル企画

公式ホームページ:http://gokko-movie.jp/


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