ロマン・ガリという作家の名前を目にしたことはありますか。私は恥ずかしながら名前は知っていても本を読んだことがありませんでした。彼がどんな小説を書いているのか全く分からないまま、ロマン・ガリという人がどんな人物なのか知りたいと観た映画を今回はご紹介します。その映画のタイトルは、『母との約束、250通の手紙』です。
今まで私はこのコーナーで紹介するときに、何かしら感動をした作品をご紹介してきましたが、今回はちょっと違った感想を持ちました。まずタイトルの『母との約束、250通の手紙』ですが、母との約束と250通の手紙にはどんな意味があるのか。それを知りたくて観た映画でした。観た後に何ともいえない感情を持ったので、この文章を読んでいる方々に「あなたはどんな感想を持ちましたか」と尋ねてみたくなり、ご紹介することにしました。冒頭にも書きましたが、この映画はロマン・ガリの書いた自伝小説『夜明けの約束』がもとになっています。
1950年代半ば、ロサンゼルスのフランス総領事で、作家のロマン・ガリ(ピエール・ニネ)は、妻のレスリー(キャサリン・マコーマック)とともにメキシコ旅行に来ていました。頭痛を訴えつつも、『夜明けの約束』と題した小説の執筆を止めようとしない夫にレスリーは内容を尋ねます。すると、返ってきた答えは、「証しだ。母についての本だ」と返事をするだけでした。
1924年、ポーランドのヴィリニュスで、雪深い通りを学校帰りのロマンが歩いていると、雪煙の奥から一人の女性が待ち構えるように現れます。その女性はロマンの母、ニーナ・カツェフ(シャルロット・ゲンズブール)です。ニーナにとってロマンは人生のすべてです。モスクワから流れてきたユダヤ人、カツェフ親子を、街の人は蔑み、まるで盗人のように扱います。詐欺まがいの方法で、高級服飾店をはじめたニーナは、息子のロマンがフランス軍で勲章を受けて外交官になり、大作家になると信じてその才能を引き出すことに命を懸け、ヴァイオリンを習わせ、社交界に出るための教育を施していきます。
1928年、破産したニーナとロマンは、フランスのニースに転居します。母は高級ホテル内の店舗経営を任されるまでになり、穏やかな生活を送るようになります。高校を卒業したロマンは、パリの大学に進学します。ロマンは作家となるべく、日々小説を書き続けますが、なかなか成果は上がりません。1934年7月、グランゴワール紙に短編小説「嵐」が掲載されます。そして、1935年7月にはフランス国籍を取得します。
1938年11月にはフランス空軍に入隊し母を喜ばせますが、1940年6月にはフランスはドイツに屈服してしまいます。そんな時に母の入院が明らかになります。病院に駆けつけたロマンに母は、ド・ゴール准将指揮下の自由フランス軍の入るように奨めるとともに、小説を書き続けるように訴えます。
アフリカに赴任したロマンは、母の声に励まされるように長編小説『白い嘘』の執筆をはじめます。いつどこにいても毎週のように母からの手紙は届けられ続けます。
1942年リビアに赴任、翌1943年8月にイギリスに戻ったロマンは、航空士として爆撃機に乗り込む日々となります。激しい戦闘のさなかにも母からの手紙は届き続けます。「息子よ、何も心配せず、書き続けて。お前は必ず勝つ。そう育てたんだから」「お前の才能は世界に知られる」「お前を誇りに思います。フランス万歳」などなど。その母の手紙に後押しされるように苛酷な出撃のさなかにも寸暇を惜しんで書き続けたロマンは1944年にイギリスで『白い嘘』が出版されることになります。いち早くその旨を知らせますが、その後の母からの手紙には、「お前は大人。もう私は必要ない」「早く結婚しなさい。お前には女性が必要だ」などなど、一番に喜んでくれるはずなのに、型通りの激励だけでした。
1945年、戦場での活躍で解放十字軍勲章を受章したロマンに「離れて何年も経つね。帰宅したとき、お前が私を許してくれますように。すべてはお前のため、ほかに方法がなかったの」という手紙が届きます。何が起こったのか分からないロマンは、急いでニースに戻りますが、そこには衝撃の事実が待っています。ここからはぜひ映画館に足を運んで観てください。
母と息子の間には、決して他の人が入り込めないものがあります。母が望んだ名誉をすべて手にしたロマン・ガリのその後の人生はどうなったのかも気になりますが、強い絆で結ばれ、途方もない母の夢を実現することだけに勢力を傾け生きてきたロマン・ガリの生涯を目の当たりすることができます。
お互いの存在だけがたよりに生き抜く親子の愛がそこにはありました。あなたはこの親子をどう見るでしょうか。
(中村恵里香/ライター)
1月31日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開
公式ホームページ:https://250letters.jp/
監督・脚本:エリック・バルビエ 共同脚本:マリー・エイナール
出演:ピエール・ニネ シャルロット・ゲンズブール ディディエ・ブルドン ジャン=ピエール・ダルッサン キャサリン・マコーマック
2017年/フランス=ベルギー/フランス語、ポーランド語、スペイン語、英語/131分/シネスコ/DCP/5.1ch/原題:La promesse de l‘aube/原作:ロマン・ガリ『夜明けの約束』(共和国)
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本/配給:松竹 R-15+
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