戦争の傷跡について描かれた映画はたくさんあります。戦場となった土地の傷、戦場となった土地での人々の傷、戦地で戦った人々の傷、目に見える傷だけでなく、心の傷もたくさん描かれています。戦争とはなにか、戦争に行った人々の心に深く踏み込んだ映画『再会の夏』が間もなく公開されます。そこには、勝者も敗者もない姿が描かれています。
第1次世界大戦が終わったばかりの1919年夏の盛り、フランスの片田舎シャラント県の留置場の前に1匹の黒い犬がつながれています。その犬は1日中何かに向かって吠え続け、留置場の役人を悩ませています。
その犬の飼い主ジャック・モルラック(ニコラ・デュヴォシェル)は、この留置場の唯一の収監され
ている人物です。彼は、戦争中、武功をあげ、レジオンドヌール勲章を受勲した英雄でした。英雄であるはずの彼がなぜ収監されているのかは、映画の後半に明らかになりますが、その彼に判決をもたらすために、軍判事ランティレ少佐(フランソワ・クリュゼ)がこの地を訪れます。黙り続けているジャックに対し、じっくり時間を取って話を聞いていくランティエ少佐に対応にいつしか心を開き、ジャックは、これまでの自分と戦場でのことを話し始めます。
ランティエ少佐は、ジャックの話から、郊外に住む農婦ヴェランティーヌ(ソフィー・ヴェルベーク)を訪ねます。質素な家で、3歳の子どもととに、たくさんの本に囲まれているヴェランティーヌにも逮捕の理由も、家に戻らない理由も分からないと語ります。
なぜ犬は吠え続けるのか、なぜジャックは家に戻らないのか、どんな罪をなぜ犯して収監されてしまったのか、そして、なぜ理由も語らず、罰を受けようとしているのか、ジャックの罪はどうなるのかは観てのお楽しみです。
この作品は、悲惨な戦争の物語ではありますが、戦争の内部に潜む傷とともに、耐えることのない愛
と信頼を描いています。
原作者のジャン=クリストフ・リュファンは、「4年の戦争後、最終結果は勝利だったかのように見えますが、現実には、真の勝利は戦争にはあり得ないという考えが主なのです」と語っています。
戦争は、内紛も含めていつまでも終わりがありません。いつもどこかで戦争が行われています。そのなかにあって、戦争で傷つく人と、その人に対する愛と信頼がどれほど必要なことなのかを教えてくれる映画です。
(中村恵里香:ライター)
12月13日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
公式ホームページ:http://saikai-natsu.com/
監督・脚本:ジャン・ベッケル/撮影:イヴ・アンジェロ
主演:フランソワ・クリュゼ 、ニコラ・デュヴォシェル
2018年/フランス・ベルギー合作映画/83分/原題:Le Collier Rouge 英題:The Red Collar
© ICE3–KJB PRODUCTION–APOLLO FILMS–FRANCE 3 CINEMA UMEDIA