マルコ・マリ・ド・ロ神父を描いた本


マルコ・マリ・ド・ロ神父という方をご存じでしょうか。フランスのノルマンディ地方の貴族の家に生まれ、大政奉還した翌年の慶応4年に日本にいらっしゃって、その生涯を長崎の外海地方の信徒たちのために捧げた方です。外海地方では愛を込めて「ド・ロ様」と今も呼ばれ、親しまれています。

そのド・ロ様の生涯をここでご紹介するよりもさまざまな作家の方がその生涯を本にしています。現在入手できるものは、6冊あります。1人の神父のことを6人もの作家の方が評伝や小説、マンガにしていることは珍しいと思いましたので、明治150年の特集でご紹介したいと思います。

まず、ド・ロ様の簡単な生涯を表にしてみました。

出津救助院跡

1840年3月27日 フランスのノルマンディー地方に生まれる。
1865年 司祭に叙階される。
1867年 パリ外国宣教会に入会。
1868年 布教のため来日。
1873年 大浦天主堂付となる。
1875年 大浦天主堂の隣に長崎公教神学校(旧羅典神学校)を建設。
1878年 外海地区(黒崎教会、出津教会)の主任司祭に着任。
1882年 出津教会聖堂を建設、ここを布教の拠点とした。
1883年 出津救助院を建設、ここを社会福祉事業の拠点とした。
1885年 外海の貧しい人々が、自分の村で働き、生活できるようにするためにイワシ網工場を建設。
1886年 ド・ロ診療所を開設。
1898年 出津の野道に共同墓地を新設。
1914年11月7日 大浦天主堂にて死去。
1915年 大浦天主堂司教館竣工。

ここで私がド・ロ神父の生涯を説明するより、優れた作家の方々が描いた本を紹介したいと思います。本は刊行年順に並べてあります。
各本のタイトルをクリックしていただくと、簡単な紹介を書いてあります。

片岡弥吉 『ある明治の福祉像 ド・ロ神父の生涯』(NHKブックス276、日本放送出版協会、1977年)

著者の片岡弥吉氏は、キリシタンの研究者です。禁教時代のことや、高山右近などのキリシタン、殉教について詳しく調べられ、今キリシタン研究の定番となっている本をたくさん書いていらっしゃいます。
『ある明治の福祉像 ド・ロ神父の生涯』は、日本におけるド・ロ神父のことだけでなく、その背景となるフランスのノルマンディにまで取材に行き、出生証明書から日本出発までを調べています。
その生涯を年代ごとに描くのではなく、「印刷・出版事業」「最初の医療救護活動」「孤児養育の使命と十次会」「外海の土地と人々」「社会福祉と聖ヨゼフ会」「農業と漁業のすすめ」「外海での医療救護活動」「有能な建築技師」「土木技師」「ド・ロさまの移住開拓事業」「ド・ロさまの人がら」「故郷恋しからずや」「聖者の死−−その労空しからず」といったようにその働きを紹介しています。
この本が後のド・ロ神父の生涯を描いたものの定番になっています。

 

森禮子『神父ド・ロの冒険』(教文館、2000年)

森禮子氏は1980年代82回芥川賞を『モッキングバードのいる町』で受賞した小説家です。プロテスタントの信者である彼女がなぜ、カトリックのド・ロ神父を書くことになったのかは、「フィールド・ノート」に書かれています。
『神父ド・ロの冒険』は、小説家森禮子氏らしい切り口でノルマンディの聖歌での様子から日本で死を迎えるまでが描かれています。

 

西岡由香『愛のひと ド・ロ神父の生涯』(長崎文献社、2009年)

西岡由香氏は、長崎生まれの漫画家です。ですので、この作品はマンガです。1864年にプチジャン神父が来日し、信徒発見のエピソードではじまっています。後にローマでド・ロ神父と出会い、ド・ロ神父を日本に同行させるところから、ド・ロ神父の日本での活動を描いています。小説や評伝などを読むのはちょっと……という方には、マンガで簡潔に読めるので、オススメです。

 

『外海のキリシタンとド・ロ神父』(長崎巡礼協議会、2010年)

「第1章 外海のキリシタン」「第2章 ド・ロ神父の足跡」の2章仕立てになっています。1章はキリシタンの布教の歴史から、禁教令と潜伏時代、移住、復活までが書かれています。2章は、ド・ロ神父の足跡が簡潔に書かれています。
本書の特徴は、外海の美しい景色とキリシタン遺物、ド・ロ神父資料館に残されたものやド・ロ神父のつくられた教会の写真が存分に使われた美しいものという点です。写真が中心になっていますので、ただ見ているだけでも心が洗われるような出来になっています。外海に足を運ぼうと思う方にぜひ見ていただきたいものです。

 

谷真介『外海の聖者 ド・ロ神父』(女子パウロ会、2014年)

谷真介氏は、児童文学作家です。子供向けの本をたくさん書かれています。『キリシタン伝説百話』や『聖書物語』『キリシタン大名高山右近』などのカトリックをテーマにした作品もたくさんあります。『外海の聖者 ド・ロ神父』は、浦上四番崩れからド・ロ神父の死まで外海での活躍だけでなく、長崎での女部屋の創設や横浜での活躍など、幅広く紹介している小学校高学年から中高生向け評伝といってもいいかもしれません。

 

岩崎京子『ド・ロ神父と出津の娘たち』(女子パウロ会、2014年)

岩崎京子氏は、1959年に児童文学者新人賞を受賞するなど、日本の児童文学賞を数々受賞した児童文学者です。『ド・ロ神父と出津の娘たち』は、ド・ロ神父様が外海に来てからの様子が女部屋創設に参加した女性たちとの交流を通して、描かれています。これまでご紹介した5冊にはない、神父と女性たちの会話などを通して、ド・ロさまの活動が生き生きと描かれています。また、本書の特徴は、外海での活動が主となっており、生涯全般を描いたものと違い、出津教会完成までとなっています。ド・ロさまの活動と女性たち、それぞれが目の前で動いているかのような物語になっていて、一気に読み進められる作品です。

 

この6冊はそれぞれに特徴があります。興味のある本を手にとって、慶応4年から大正3年までド・ロさまと呼ばれ、外海の人々に愛されたド・ロ神父様の生涯を感じてみてはいかがでしょうか。

 


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

3 × 5 =