復活祭の音楽


松橋輝子(東京藝術大学音楽学部教育研究助手 桜美林大学非常勤講師)

復活祭の典礼では、イエス・キリストの復活の喜びに満ちた華やかな音楽が鳴り響きます。悔悛の季節として、音楽が制限されていた四旬節とは大きく異なります。

《ま白きよそおい》の由来

 

現在の日本のカトリック教会で復活節によく歌われる聖歌に《ま白きよそおい》があります。この聖歌もまた、18世紀のドイツに起源をもっています。ドイツで歌われている歌詞に注目すると、死に打ち勝った主への賛美の歌が声高らかに歌われています。

Preis dem Todes Überwinder,      死に打ち勝った方をたたえよう。

Sieh er starb auf Golgotha,       見よ、その方はゴルゴタで死んだ。

Preis dem Heiliger der Sünder,     罪びとを清める方をたたえよう。

Preis ihm und Alleluja.         彼をたたえよう。アレルヤ。

Lasst des Bundes Harfe klingen,     契約の琴を鳴らそう。

Lasst uns, lasst uns freudig singen   喜びをもって歌おう。

Alleluja Jesus lebt,           アレルヤ。イエスは生きている。

Jesus lebt, Jesus lebt,          イエスは生きている。イエスは生きている。

Alleluja Jesus lebt.           アレルヤ。イエスは生きている。

現行の『カトリック聖歌集』202番の歌詞は、この聖歌が日本で最初に歌われるようになった際に与えられた歌詞と、非常に類似していますが、その中では、死に打ち勝った主への賛美だけではなく、キリストが神と人間の仲介者であること、そしてキリストの昇天を踏まえた、天におられる主への賛美も行われています。

以下は『公教會聖歌集』(第1版、1918)にこの聖歌が掲載された際の歌詞です。

1.白きころも着て 悲しみ忘れ

棕櫚の葉手に持ち 喜びうたへ

主は死にうち勝ち 蘇へりましぬ

天地にこぞり ほめよ うたへ 主の御栄光を(折り返し)

2.我等に命を あたへんだめに

暗黒き墳墓を 開きたまへり

主にある諸人 ほめたたへまつれ

3.主はよみがへりて 御栄光たかく

父なる天主の 右にのぼりて

我等のためにぞ 懇求したまへる

4.仰へやもろ人 蒼空たかく

天津御座より 主ぞ招きたまふ

浮世を忘れて 主を愛慕まつれ

(『公教會聖歌集』《第1版、191824番)

この歌詞が書かれた1910年代は、日本の教会の司祭といえども外国人宣教師がほとんどを占め、ミサももちろんラテン語で行われ、聖書がやっと日本語で読めるようになってきた、という時代でした。そんな中で、日本語歌詞を持つ聖歌を歌うことは、多くのカトリック信者にとって日本語で神を讃えられる貴重な機会であり、キリスト教信仰を学ぶ機会でもありました。こうした状況を踏まえて、歌詞を改めて読み直すと、たった1曲の中に、受難から昇天まで、復活の信仰が言葉となって表現されていることを実感します。

ヘンデルの《メサイア》

 

さて、復活祭のための聖歌は数多くありますが、教会暦上でもっとも重要な祝日であるにもかかわらず、いわゆる西洋クラシック音楽の中に、復活祭を象徴する音楽は、それほど数多くはありません。復活祭に関する音楽として有名なものに、バロック時代の作曲家ヘンデル(16851759)が作曲したオラトリオ《メサイア》があります。

このオラトリオは、イエス・キリストの生涯を題材としており、第1部は降誕、第2部は受難と復活、第3部はキリストがもたらした永遠の命が聖書の言葉とともに描かれます。

2部の最後の曲は、かの有名な「ハレルヤ・コーラス」です。イエス・キリストの復活ののち、主の栄光の国が訪れることを賛美する内容が、『ヨハネの黙示録』に基づいて、作曲されています。「ハレルヤ」は、復活に結びつけられることが多く、復活節を象徴する言葉です。

復活の喜びの中で、「ハレルヤ・コーラス」を聴いてみてはいかがでしょうか。

Hallelujah! ハレルヤ!

for the Lord God Omnipotent reigneth.      全能の主なる神が君臨される。(黙示録19:6)

The Kingdom of this world is become      この世の王国は

The Kingdom of our Lord and of His Christ;   我らが主とそのキリストの王国となった。

and He shall reign for ever and ever        そして彼は永遠に支配するであろう。

(黙示録11:15)

King of Kings, and Lord of Lords.        諸王の王、諸君主の君主。(黙示録19:16)


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