本連載は、イエズス会のグレゴリー・ボイル(Gregory Boyle)神父(1954年生まれ)が、1988年にロサンゼルスにて創設し、現在も活動中のストリートギャング出身の若者向け更生・リハビリ支援団体「ホームボーイ産業」(Homeboy Industries)(ホームページ:https://homeboyindustries.org/)での体験談を記した本の一部翻訳です。「背負う過去や傷に関係なく、人はありのままで愛されている」というメッセージがインスピレーションの源となれば幸いです。
ギャング出身*の親しい仲間たちにささげる(*訳注:「ギャング」とは、低所得者向け公営住宅地等を拠点に、市街地の路上等で活動する集団であるストリートギャングを指します。黒人や移民のラテン・アメリカ系が主な構成員です。)
グレゴリー・ボイルGregory Boyle(イエズス会神父)
訳者 anita
15年前、バンディット(訳注:Bandit。強盗の意味)が、私に会いに来ました。仲間たちは彼にぴったりのあだ名を考えたものです。彼は、あらゆる違法なものに首を突っこんでいました。彼は、ギャング生活にどっぷりと漬かり、アリソ・ビレッジ地区で、車に走り寄っては麻薬を売りさばいていました。彼は長年、刑務所に入り、助けの申し出をいつも受けつけませんでした。しかし15年前のある日、彼は抵抗するのをやめました。彼は私のオフィスに座り、「疲れていることに疲れた」と言いました。私は、4名いる私たちの就職あっせん担当者のうちの一人のところに彼を送り、幸運にも、倉庫で入門レベルの働き口の空きが見つかりました。特別な技能がいらない低賃金の最初の仕事です。
その15年後、バンディットは、ある金曜日の営業終了間際に電話してきました。彼は今、倉庫を運営し、マイホームを持ち、結婚して3人の子どもがいます。しばらくの間、彼から連絡がありませんでした。通常、ギャング出身者相手の場合、「便りがないのはよい便り」です。彼は息せき切って焦った口ぶりで話しました。
「G、オレの娘を祝福してくれ」
「彼女、大丈夫かい?」と私は聞きました。「その、彼女が病気とか――もしや入院中とか?」
「いやいや、違うよ」と彼は言いました。「日曜日に、彼女がハンボルド・カレッジに行くんだ。考えてみろよ、年長のオレのキャロライナがカレッジに進学だぜ。でもさ、彼女は小さい子で、心配なんだ。だから、彼女のために見送りの祝福を頼めないかい?」
私は、彼らに翌日、ドローレス・ミッション教会に来てもらうことにしました。普段、午後1時からこの教会で洗礼式を行っています。バンディットと彼の奥さん、そしてカレッジに入学予定のキャロライナを含む子どもたち3人が12時半にやってきました。私は、家族を祭壇の前に集め、キャロライナを真ん中に立たせました。そして全員で彼女を囲み、私は、みんなに彼女の頭や肩に触れながら、目を閉じて頭を下げて祈ろうと呼びかけました。そして、ギャング出身の子たちが言う「長ったらしい祈り」を唱えました。するとやがて一人残らず泣き虫となって鼻をすすり出しました。
なぜ私たちが揃いもそろって泣いているのかよく分かりませんが、おそらく、バンディットも奥さんも、私以外でカレッジに進学した人を知らないからかもしれません。両者どちらの親族からも当然誰もいません。こうして祈りを終え、感傷的になった自分たちを笑いました。涙をぬぐいつつ、私はキャロライナに質問しました。「で、ハンボルドでは何を勉強するんだい?」
彼女は間髪入れずに答えます。
「犯罪心理学よ」
「へええ、犯罪心理学かい?」
バンディットが口をはさみました。「そう、彼女は犯罪者の心理を勉強したいんだってよ」
しーん。
キャロライナはバンディットの方をゆっくりと向き、父親に見えないように片手で隠しつつ、もう片方の手で彼を指さしました。私たちは、そのしぐさに気づいて大笑いします。バンディットは言いました。「おうよ、オレが彼女の最初の研究対象さ!」
私たちは笑いながら彼らの車に向かいました。全員、車に乗り込みましたが、バンディットは名残惜しそうにすぐには乗りません。「一言いいかい?」と私は駐車場で立ちながら彼に言いました。「君が選んだ道を歩めたのは、君自身の力によるものだよ。君を誇りに思うよ」
「あのさ」と彼は涙ぐみながら言いました。「オレ、自分を誇りに思うんだ。今までずっと、役立たずのクズ野郎だと言われ続けてきたけど、これで見返してやったぜ」
実際、そうでしょう。
人はこうして自分が価値ある存在だと実感するのです。
TATTOOS ON THE HEART by Gregory Boyle
Copyright © 2010 by Gregory Boyle
Permission from McCormick Literary arranged through The English Agency (Japan) Ltd.
本翻訳は、著者の許可を得て公開するものですが、暫定版です。