昨年から今年にかけて、チベットを舞台にした映画を見る機会が増えています。最初に観た映画が池谷薫監督の「ルンタ」というチベット仏教の僧による焼身自殺をテーマにした映画でした。そして、中国人監督による「ラサへの歩き方——祈りの2400km」というチベット仏教の巡礼の形式五体投地を追ったドキュメンタリードラマでした。それぞれにとても考えさせられる映画でした。そして今回ご紹介する映画は、チベット人監督による「草原の河」です。
この映画の特徴の一つは、母親ルクドル役のルンゼン・ドルマ以外、ほとんどの登場人物が素人ということです。プロといっても、ルンゼン・ドルマも役者ではありません。チベットで有名な歌手だそうです。
物語の大きなテーマは家族です。中国の文化大革命に際し、僧籍を離れざるを得なかったので
すが、再び村から離れた洞窟で一人修行に励む祖父と、ある理由から父を許せずにいる息子のグル(グル・ツェテン)、妻のルクドル、その娘で、6歳になっても乳離れのできないヤンチャン・ラモ(役名は本名)の4人です。
詳細は省きますが、なぜグルは、父を許せないのか。母親の妊娠を知ったヤンチェンの行動。苛酷なチベットの大自然との共存。さまざまな問題をはらんで物語が展開します。
とても素人を使った配役とは思えない出演陣の演技も驚きの連続です。特に、ヤンチェンの演技は、とても6歳の少女とは思えないかわいさがあります。
監督の弁によると、この映画の出演者には事前に映画の内容を教えず、脚本も見せずに撮影が
始まったそうです。出演者は、この映画が何を伝えたいのか、まったく知らずに進んだといいます。1シーンごとに監督が台詞を教え、撮影が進んだといいます。
もともと、牧畜民だったグルが、本来の自分の生活の中で、台詞だけを当てはめられて、演じる。そんな方法もあるということが、ある意味驚きでもありました。
私が外国映画の楽しみのひとつに、ストーリー展開とは別に風景を楽しむこともあります。行ったこともない外国の風景をストーリーとは関係なく、楽しむことができるのも映画の一つの楽しみです。特にこの映画、チベットの大草原で、何もないようなところを描いているのですが、ロングショットで風景を描き出すことで、チベットの大草原の雄大さを感じられます。
私たち日本人とまったく生活習慣の異なるチベット民族の生活を垣間見られ、人間の機微に触れることのできるこの映画、映画館の大画面でご覧になることをお勧めします。
◆:4月29日(土・祝)より岩波ホールにてロードショーほか全国順次公開
配給:ムヴィオラ
監督・脚本:ソンタルジャ/撮影:王 猛
出演:ヤンチェン・ラモ、ルンゼン・ドルマ、グル・ツェテンほか
原題:河|英語題:River|2015年|中国映画|チベット語|98分|DCP|ビスタサイズ|ステレオ
公式サイト:www.moviola.jp/kawa
(中村恵里香/ライター)