港のひかり


©2025「港のひかり」製作委員会

人は一人では生きられません。自分を守るために誰かを犠牲にしてしまうこともありますが、人を助けるために自らの力を誇示するということもあるはずです。そして些細な嘘をつくこともあります。なぜ人はそんな行動を取るのだろうかとふと考えてしまう映画に出会いましたので、ご紹介します。
 日本海を臨む小さな漁村で漁師として日銭を稼ぎながら細々と生活する元ヤクザの三浦(舘ひろし)。ある日、三浦は通学路で白い杖をついて歩く少年の幸太(尾上眞秀)を見かけます。弱視を患う幸太を、同級生の子どもたちは、わざと転ばせて笑い者にしていました。
 幸太は両親をヤクザ絡みの交通事故で亡くし、彼を引き取った叔母はろくに育児もせず、その交際相手からも虐待を受けていました。事情を知った三浦は、孤独な幸太にどこか自身の姿を重ね、自分の船に乗ってみるかと誘います。
 どこにも居場所がなかった者同⼠、2人は年の差を越えた特別な友情を築きます。自分のことを“おじさん”と慕い、一人の人間として接してくれた幸太に三浦は救われていきます。幸太におじさんは何をしている人と問われたときに元ヤクザとはいえず、自分を見守り続けてくれた刑事・田辺(市村正親)であるかのように話をします。
 幸太に視力回復の手術を受けさせるため、舎弟の大塚夕斗(ピエール瀧)から情報をもらい、かつて所属していた組の麻薬の取引現場を襲って金を奪います。そして幸太に一通の手紙を残して自首します。

©2025「港のひかり」製作委員会

 目の手術に成功した幸太は、遠くへ行ってしまった“おじさん”を見ることなく孤児院へ入所するのでした。
 12年後。出所した三浦は、静かに暮らすことを望み、地方の運転代行業者として働いていました。幸太(成人後・眞栄田郷敦)とは手紙のやり取りは続いており、“おじさん”に会いたいと思いながら、幸太は三浦に憧れて刑事になっていたのです。
 そんな中、幸太は警察の資料から“おじさん”の正体を知って葛藤します。それでも会いたいと願った幸太は居場所を突き止め、三浦と再会します。しかし、彼らの出会いはかつての因縁を呼び起こしてしまうことになってしまいます。ヤクザに狙われる三浦と幸太。一人ヤクザに立ち向かう三浦。そして、幸太も”おじさん”のためにヤクザの元へ向かっていくのです。
ここからは皆さん、観てのお楽しみです。三浦とヤクザの関係はどうなるのか、そして幸太は……。
この作品、些細な嘘から人の人生を変えてしまうこともあるというメッセージと共に、舘ひろし演じる三浦の生き方に貫かれている、自らのことよりも人のために自分を犠牲にする姿に胸を打たれます。
日本には、「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」という言葉が昔から語られています。同じような言葉は聖書にもあります。誰かのために生きることの難しさも描かれていますが、ラストには血の繋がりがなくとも築ける絆、そして誰かのために生きることの美しさが語られます。三浦が背負ってきた過去と、幸太が歩んできた苦悩は、港町の風景とともに映し出されていきます。
幸太に見せる優しい表情は舘ひろしだからこそ出せるものだと思います。“おじさん”と少年の交流をメインにした作品であることは、観る前から想像していましたが、実際に観ると涙なしでは観ることのできない作品でした。
ぜひ映画館に足を運んで観てください。

11月14日(金)よりぜんより全国公開

公式ホームページ:https://minato-no-hikari.com/
スタッフ
監督・脚本:藤井道人/企画:河村光庸/製作:吉村文雄、金子保之、藤田晋、浅井武士、四宮隆史/プロデューサー:角田道明、小杉宝、溝畠三穂子、山崎智広、行実良、市山尚三/撮影:木村大作/照明:佐藤俊介/録音:中里崇/美術:原田満生
出演:舘ひろし、眞栄田郷敦、尾上眞秀、黒島結菜、斎藤工、ピエール瀧、一ノ瀬ワタル、MEGUMI、市村正親、宇崎竜童、笹野高史
2025年製作/118分/PG12/日本/配給:東映、スターサンズ
©2025「港のひかり」製作委員会


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です