てっぺんの向こうにあなたがいる


登山家の田部井淳子という人をご存じでしょうか。一時期ワイドショーなどに盛んに出ていましたが、女性初のエベレスト登頂を果たした人です。その田部井淳子さんをモデルに吉永小百合さんが主人公・多部純子として演じ話題になっている作品がまもなく公開されます。

多部純子(のん)は、女子登山クラブの仲間とエベレスト登頂の遠征費を集めるため奔走していました。結婚し、子供を持ち、家庭を築きながらも登山家としての道を諦めない純子の生き方は、多くの女性たちの希望の象徴となっていました。新聞記者の北山悦子(茅島みずき)も影響されたひとりで、純子たちと共に頂を目指すことになります。

1975 年、女子登山クラブはエベレストに向かいます。途中、雪崩による負傷やシェルパが高山病になったことで、頂をめざすアタッカーは純子ひとりに託されました。一歩一歩、踏みしめながら前に進み、遂に 8,848 メートルの山頂に立ちます。女性として世界初のエベレスト登頂を果たした記念すべき瞬間、純子は青空に向かって高々と片手をあげます。その偉業は世界中を驚かせました。

仲間と共になし遂げたエベレスト登頂でしたが、スポットライトは純子一人に向けられ、あたたく間に唯一無二のパイオニアとしてその名前を刻み、輝かしい栄光として人々に受け止められ、注目を浴びます。しかし、純子一人が脚光を浴びることに登山仲間から非難の目を向けられ、仲間との決別という深い影を落とします。悲しみに暮れる純子を悦子は支えていきます’。また、純子の息子・真太郎(若葉竜也)にとっては、生まれたときから母は有名人で、学校でもどこでも「多部純子の息子」と言われることに耐えかねていました。ある日、純子と衝突した真太郎は、姉・教恵(木村文乃)の助言もあり、転校して福島の親戚の家で暮らすことを選びます。

2010 年、純子(吉永小百合)は病院で検査を受けていました。担当医からステージIIIC の腹膜がんであると告げられ、夫の正明(佐藤浩市)は絶句しますが、純子は「病気になったからって、病人にならなくちゃいけないわけじゃないでしょ?」と明るく振る舞い、いつもと変わらない日々を送ります。

余命宣告を受けながらも、長年の親友・悦子(天海祐希)を誘ってキャンプに出かけ、満天の星空を見ながらエベレストを目指した当時を懐かしみます。また、正明とも出会った頃を思い出すかのように二人で山を登り、夫の優しさと温かさに感謝します。純子の山への情熱は、決して衰えることはありませんでした。

2012 年には、東日本大震災で被災した東北の高校生のための富士登山プロジェクトを企画し、その資金集めのためにチャリティーコンサートを開催します。純子自らステージに立ち、幸せそうにシャンソンを歌います。その姿を舞台の袖で悦子は見守ります。正明と教恵と真太郎は、客席から拍手を贈っていました。

第1回・東北の高校生の富士登山の日がやって来ます。真太郎のサポートもあり富士登山は成功を収め、翌年もそのまた翌年も純子は高校生たちと富士山に登るが、第5回目の富士登山は、純子にとって最後の登山となりました。

どんなにつらい時でも笑顔で周囲を巻き込む純子は人生をかけて山に挑み続けます。彼女にとって、病との闘いも一つの登攀だったのかもしれません。登山家として、母として、妻として、一人の人間として、純子が最後にてっぺんの向こうに見たものとは何だったのでしょうか。

この作品、決して山登りをテーマにした映画ではありません。田部井淳子さんがいかに前向きに周囲の人たちを愛し、人生を謳歌したのかが描かれています。ぜひ映画館に足を運んで観てください。きっと映画館を後にしたときにすがすがしい気持ちで前向きになること請け合いです。

中村恵里香(ライター)

10月31日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

公式ホームページ:https://www.teppen-movie.jp/

スタッフ:監督:阪本順治/脚本:坂口理子/音楽:安川午朗/原案:田部井淳子「人生、山あり時々谷あり」(潮出版社)/製作総指揮:木下直哉/エグゼクティブプロデューサー:武部由実子/プロデューサー:冨永理生子/アソシエイトプロデューサー:椎井友紀子/音楽プロデューサー:津島玄一/撮影:笠松則通/照明:渡邊孝一/録音:照井康政/美術:杉本 亮/装飾:佐藤孝之/編集:普嶋信一/衣裳:大塚 満/ヘアメイク:豊川京子/音響効果:小島 彩/VFX スーパーバイザー:白倉慶二、興村暁人

キャスト:吉永小百合、のん、天海祐希、佐藤浩市、木村文乃、若葉竜也、工藤阿須加、茅島みずき、和田光沙、円井わん、安藤輪子、中井千聖、長内映里香、三浦誠己、金井勇太、カトウシンスケ、森 優作、濱田マリ、浅見小四郎

130分/日本/2025年/製作:「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会、木下グループ、朝日新聞社、読売新聞社、報知新聞社/制作プロダクション:キノフィルムズ、ドラゴンフライ/配給:キノフィルムズ/協力:一般社団法人 田部井淳子基金

© 2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会


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