Doing Charity by Doing Business(28)


山田真人

前回の記事では、NPO法人せいぼの学生スタッフの活躍を紹介しました。そこで、私も学生時代を思い出し、この連載であるDoing Charity by Doing Businessという言葉に出会うまでのことを振り返るきっかけとなりました。上智大学の学生の時、「文学と神学を学ぶことは、将来何の役立つのか」と何度も聞かれて考えました。英文学を学びながら、チャールズ・ディケンズやハリエット・ビーチャー・ストウの物語に心を動かされ、神学を学びながら、聖書の登場人物たちの応答に導かれることもありました。けれども、それが「仕事」や「キャリア」とどのように結びつくのかは、当時の私にはまだ見えていませんでした。

しかし今、振り返ってみると確かに言えることがあります。文学と神学は、単なる学問ではなく、「生き方」と「使命」への準備だったということです。私がアフリカ・マラウイで教育支援を行い、日本でフェアトレードを広げ、企業とNPOの両輪で活動している今の姿には、あの時の読書と神学的な思考、そして共に学んだ人々の存在が深く息づいています。

福岡教区の青年との活動の写真

今回は、英文学と神学がどのように現実の社会課題やキャリアと結びつき、「召命(vocation)」という形で実を結んでいったのかを、「共感・接続・実行」という三つのキーワードを軸にお伝えしたいと思います。

英文学科の1年生の頃、上智大学のIntensive Readingという授業で出会った一冊が、チャールズ・ディケンズの『オリバー・ツイスト』でした。19世紀のイギリス社会における貧困と労働環境の過酷さを、孤児オリバーの視点から描いたこの作品は、単なる文学の教材を超えて、私にとって「他者の痛みに目を向ける感覚器官」を開く扉となりました。

ディケンズの筆致は、個々の人物を描写するだけでなく、読者の内側に倫理的な問いを呼び起こします。なぜこの子は空腹なのか。なぜ彼を助ける制度がないのか。なぜ大人たちは彼の叫びを無視できるのか。小説は、読者が「傍観者」ではなく「応答者」となるよう促してくるのです。

私はこの物語を読みながら、16世紀から存在したエリザベス救貧法の背景を調べ、さらに金澤周作氏の『チャリティの帝国』という書籍に出会いました。イギリスが慈善国家として名高いにもかかわらず、福祉が支配者階級の自己満足で終わっていないか。そうした問いが、文学を読みながら自然と浮かび上がってきたのです。

同時に、私は自分の教会で侍者を務めていたことを思い出しました。当時、小学3年生だった私に向かって、神父様はこう言ってくださいました。「まことくんがいてくれるから、ミサができるんだよ」。朝の静けさの中で、神父様と一緒に食べた朝ごはんの温かさを、私は今でも忘れることができません。

文学とは、単に物語を味わうものではなく、時に神の語りかけを受け取る場にもなります。神学部進学前に所属していたアメリカ文学のゼミでは、『アンクル・トムの小屋』を読みました。ハリエット・ビーチャー・ストウが描いたこの作品には、黒人奴隷トムの苦しみに、聖書の「苦しむ僕」のイメージが重ねられています。

ここで私が出会ったのが、「予型論(Typology)」という聖書解釈の手法です。旧約聖書の出来事や人物が、新約聖書におけるキリストの生涯の“型”としてあらかじめ備えられているという考え方であり、文学作品においてもこのアプローチが巧みに使われています。トムというキャラクターは、単に「奴隷」ではなく、「神の救済史」に生きる存在として描かれている。これは、まさに社会の痛みと神の歴史を「接続」させる文学の力です。

私はこの接続の感動から、「文学は神学に先立つ祈りのようなものかもしれない」と感じました。物語を通して他者の痛みを知ることは、祈りの第一歩です。読解とは、読者が神と人とをつなぐ「中間者」となる営みなのかもしれません。

そして、私に「実行」の覚悟を促したのが、実業家トニー・スミス氏との出会いでした。彼が私に差し出した名刺には、こう書かれていました──“Doing Charity by Doing Business.”(ビジネスによって、チャリティを実現する)。

彼は言葉だけでなく、行動でこの理念を体現していました。通信事業を通じて得た利益を、アフリカの若者の職業訓練や教育支援に還元していたのです。私もそれに憧れ、英国Mobell Communicationsに入社し、日本でNPO活動を開始しました。今では「ビジネス」と「奉仕」が矛盾するどころか、互いに支え合う関係であることを実感しています。

英文学や神学を学ぶことに、直接的な職業的意味を見いだせずに悩む学生もいるかもしれません。しかし、共感(他者の痛みに触れること)、接続(神の物語と自分の物語をつなぐこと)、実行(祈りを行動に変えること)という、三つの力を育んだことが、まさに私の人生そのものを形作ったことは、私がはっきり伝えることができます。

 

山田 真人(やまだ・まこと)
NPO法人せいぼ理事長。
英国企業Mobell Communications Limited所属。
2018年から寄付型コーヒーサイトWarm Hearts Coffee Clubを開始し、2020年より運営パートナーとしてカトリック学校との提携を実施。
2020年からは教皇庁いのち・信徒・家庭省のInternational Youth Advisary Bodyの一員として活動。

 


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