第二次世界大戦後80年を迎え、さまざまな形で戦争を考える作品が公開されています。そんなか、学童疎開船対馬丸事件を扱ったドキュメンタリー映画「満天の星」をご紹介します。
対馬丸事件はご存じでしょうか。沖縄戦を前にした1944年8月21日、夕方銅鑼の音もなく、静かに九州へと学童疎開する子どもたちや民間人を乗せた対馬丸、和浦丸、暁空丸は、砲艦「宇治」と駆逐艦「蓮」の護衛団に守られて沖縄県那覇港から九州へと出港します。軍部は沖縄に残るお年寄りや女性たち、そして子どもたちが足手
まといになると考え、本土に疎開することを決定します。
愛する人の名を叫び手を振る見送りの人々も、船上ではしゃぐ子どもたち1778人を乗せた対馬丸は、鹿児島県・悪石島の北西約10㎞の地点でアメリカの潜水艦ボーフィン号から発射された魚雷により沈没します。乗員1778英のうち、判明しているだけで1484人、うち約半数の784名の学童が犠牲になりました。
事件当時「対馬丸」の甲板員であった中島高男さんは、対馬丸事件の語り部通して活動をしていました。中島さんの孫である俳優・寿大聡氏は自分にできることは何か、それを探すために、祖父の死をきっかけに対馬丸事件の足跡をたどり始めます。
生存者からの声を聞き、そして疑問に思うことを研究者から聞き取り、なぜ国際法で禁じられているは
ずの子どもたちの乗っていた船を撃沈しなければならなかったのか、護衛艦2艘は、なぜ救助しなかったのか、そし
てなぜ世間の目にこの事件が隠蔽されていたのかを解き明かしていきます。
体験者の声は戦争を経験していない私たちの胸に堪えるほど、悲惨なものです。体験者の多くが鬼籍に入り、語り継ぐ重要性が問われている現在、寿大聡
氏は、対馬丸合唱団の小学生たちと現在戦争中のウクライナで子どもたちの夢を聞いていきます。その大きな違いに驚いた寿大聡氏は、一つの結論に達します。
それは何かはぜひ映画館に足を運んで観てください。平和な日常は当たり前のものではなく、二度と戦争を起こさないと活動した先人たちの生の声に耳を傾けてほしいとこの作品は語りかけています。
作品の最後に中島高男さんの著作『満天の星』の言葉が死すされているのでご紹介します。
「新しい世代の子どもたちは、大人になっていく過程で、昔の悲惨な出来事が沖縄であったことをきっと知るでしょう。
そのときに、本当のことを学べるように、対馬丸撃沈事件は語り継がなければなりません。
戦争の傷は受けてしまえば一生消えません。でも、話すことがいくら苦しくても語り継がなければならないのです。」
私たち戦争を知らない世代が両親祖父母の声を少しでも聞き取り、戦争体験を語り継ぐことの重要性を問いかけられているような作品です。
中村恵里香(ライター)
8月1日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国順次公開
公式ホームページ:https://mantennohoshi-film.jp/
スタッフ
監督:葦澤恒、寿大聡/エグゼクティブ・プロデューサー:田中健、ジェームス文護、中川秀彦、関口忠宏、土居 由直/プロデューサー :寿大聡、オシアウコ/編集:秋元一富/構成:松本建一/音楽:市川淳/絵:長友心平
出演:寿大聡、中島髙男、平良啓子、仲田清一郎、上原清、 高良政勝
ナレーション:田中真弓
2025年製作/84分/日本/配給:ナカチカピクチャーズ/©2024 映画「満天の星」製作委員会