生きがい/能登の声


災害大国日本という声がだんだん大きな声としてニュースなどで報じられています。今あることに目を奪われ、過去のことを忘れやすい人間にとって、次々に起こる災害にどう向かっていけばいいのか。そして、私たちになにができるのかに日々心悩まされるのですが、なにもできない自分がここにいることを再確認するばかりです。

2024年1月1日に起こった能登半島地震は、元旦の出来事として驚きをもって受け止められました。その甚大な被害を生じた地震から9カ月半が経った9月21日、地震で大きな被害があった奥能登地域が、豪雨という再びの災害に見舞われます。能登半島地震の震源域に近く、特に家屋の倒壊等の被害が大きかった地域を襲った2度目の災害。

『生きがい』の監督を務める宮本亞門は、能登でのボランティア活動に参加、想像を超える被害と復興の遅れを目の当たりにし、「もう生きていてもしょうがない」という被災者の言葉に、未来を想像することすら苦しみとなっている現実を知ったといいます。宮本が地元の人々の声を聞き、言葉に触れ、復興の想いを募らせ、その想いに賛同したスタッフ・キャストが集結し、この作品が生まれたといいます。

石川県能登の山奥、土砂災害の被災現場で、崩壊した家の下から一人の男が救出されます。

見守っていた人々から声をかけられますが、元教師で「黒鬼」と呼ばれる山本信三(鹿賀丈史)は鋭い眼光を残し、去っていいきます。

避難所になじむことができない黒鬼は、崩壊した自宅の一角で暮らし始めるのです。ある日、ボランティアセンターの上田(根岸季衣)の紹介で、被災地ボランティアたちが黒鬼の自宅の片づけの手伝いに訪れます。壊れていたり汚れて使えなくなったものを処分していくボランティアたちでしたが、あるものを捨てようとして激怒した黒鬼に追い出されてしまいます。ボランティアが捨てようとしたのは、黒鬼にとって、唯一の理解者であり、今は亡き妻・美智子(常盤貴子)の形見の茶碗でした。

後日、亡き妻のことを知ったボランティアの青年(小林虎之介)が再び黒鬼の元を訪れます。彼もまた、大切な人を亡くしており「自分と同じだ」と、黒鬼に心のうちを語りかけるのです。青年の話を聞いた黒鬼は、被災にあい倒壊した家に閉じ込められていた間のことを話し始めます。妻を亡くし、死にたいと思っていた男が青年と向き合うことで自らをお見つめ直し物語です。

ショートフィルム『生きがい』のメイキング映画撮影のために訪れた能登の「今起きていること」を映し出したドキュメンタリー『能登の声The Voice of 』は、深い傷跡を負う能登の「今」が映し出されています。

映画撮影の地元の協力者たちや監督・手塚がかつてお世話になった人々の声を集め、能登の今を映し出しています。その中でいくつか心打たれる言葉がありました。地震直後から道路の補修をしていた男性は、『経験をしていなければわからない。でも映画になることで少しでもわかってもらえれば』といっていました。黒鬼の家を提供した男性は解体されること緒が決まった家の中で「今年で77歳になる。年を取ると毎日が楽しい。災害があっても……」と。そして能登の海で生きる男性は「豊富な海があり、山があり、これが自慢でもあり、ここから離れることができない。共に生きていく……」と話していました。

鹿賀丈史演じる心を閉ざした孤独な男が生きがいのかけらを取り戻す姿を描いた温かな人間ドラマと、実際に能登半島で生きる人々の涙と希望を収めたドキュメンタリーどちらも30分少々といった短い作品ですが、2作を続けてみることで、生きることへの希望とともに本当の能登の今を観て、能登で起こっていることを知るだけではなく、能登で生きる人々に寄り添えることは難しいかも知れませんが、少しでもわかり合えるのではないかと思います。ぜひ劇場に足を運んで観てください。

7月11日 シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー

公式ホームページ:https://ikigai-movie.com/index.html

『生きがいIKIGAI』

スタッフ

企画・監督・脚本:宮本亞門/音楽:山下康介/プロデューサー:木幡久美、古賀俊輔、飛岡秀行/アソシエイトプロデューサー:脇坂郁恵/撮影:松本典朗/照明:宗賢次郎/照明(御陣乗太鼓):加藤功/録音:鈴木健太郎/装飾:KEN

/衣装:宮本まさ江、新井正人/ヘアメイク:高嵜光代、堀ちほ/編集:脇本一美/音楽プロデューサー:田井モトヨシ/音響効果:浦川みさき

キャスト:鹿賀丈史、根岸季衣、小林虎之介、杉浦文紀、美緑トモハル、宗村春菜、御陣乗太鼓保存会、津田寛治、常盤貴子

上映時間: 28分/製作:2025年/配給:スールキートス/制作プロダクション:ザフール/宣伝:満塁/企画協力・配給協力:フリック

『ドキュメンタリー 能登の声The Voice of NOTO』

上映時間:38分/製作:2025年

監督・編集:手塚旬子/ナレーション:蒼あんな/音楽:溝口肇/撮影:谷茂岡稔

/プロデューサー:木幡久美、古賀俊輔、木村吉孝/アソシエイトプロデューサー:脇坂郁恵/企画協力・制作プロダクション:ザフールnexus/宣伝:満塁/企画協力・配給:スールキートス配給協力:フリック

特別協力:輪島市

©「生きがい/能登の声」フィルムパートナーズ


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