山田真人
前回の記事では、歴史神学と聖書釈義学を通して、過去の記憶を現代に循環的に反映させることで展開する教会の進展、そしてビジネスとの繫がりについてお話しました。そうした社会の中で展開する神学、そして聖霊の働きについて、教育機関の中で伝えることもミッションとしているのが、筆者が代表を務めるNPO法人せいぼです。その広がっていく先として、今回は日本の塾を取り上げます。
現在、大学入試の約半数が総合型選抜、学校推薦型の入試で受験されるようになってきており、実社会での体験を基に、自分の意見を伝え、それを大学の学びで深めることができる人が求められるようになっています。そのため、NPOや一般社団法人のような、いわゆる第三組織(企業でも政府でもない法人)が持つ社会課題の共有と、実際の組織運営のノウハウが、若い人の将来に大きな役割を果たすようにもなってきました。そんな中、NPO法人せいぼは学校だけではなく、推薦入試専門で運営される塾とも協働して、活動をしています。その狙いは、国際課題であるマラウイの貧困について、せいぼのスタッフやマラウイコーヒーという商品を通して身近に感じてもらい、一緒に活動を広めてくれるアンバサダーを育てることです。
例えば、リザプロ株式会社では、まず、私たちがオンデマンドのビデオでの事前学習教材を提供し、1週間後にオンラインで生徒の質問に答え、小グループでプロジェクトを立ち上げてもらうことを目的に授業を実施しています。その中で、寄付型商品の販売やクラウドファンディングなどの企画が提案され、実際にマラウイの支援に繫がり、ビジネスのパートナーとして協働しています。(詳しい活動はこちらもご覧ください)
また、二回目の授業では実際に販売店舗のスペースを借りて、マラウイの商品を学生が販売します。その後、売り上げをマラウイに報告することで、具体的な利益を支援として送る活動をしています。こうした実践的な経験が、経営学、法学(NPOにおける収益事業の規則を学ぶ)、マーケティングなどの学習に繫がり、大学入試への実績にもなります。このプロセスで重要なのは、学生から私たちNPOの職員も学ぶことが多く、一緒にパートナーとして活動しているという意識です。常にアップデートが必要な入試業界や市場分析には、若い人の意見が必ず必要になります。
ここで、一気に教会が社会に目を向け始めた頃のことと、繋げてみます。教皇のピウス9世(在位1846~78年)は、イタリア統一の流れやナポレオンの侵攻進行などによって、教会の自由化を試みた初期から、一気にその在位期間の後半で、一気に保守化してしまった教皇でした。次の教皇レオ13世(在位1878〜1903年)は、労働問題への取り組みとして、回勅『レールム・ノヴァルム』(1891年)で、産業化から生じる社会問題に取り組み、労働者の権利、公正な賃金、および社会正義における教会の役割を擁護しました。その後、ピウス12世(在位1939~58年)は、共産主義と戦い、第二次世界対戦の犠牲者とも向き合い、バチカン市国として日本との外交も開始することで、徐々に社会と向き合う教会の姿が現れてきたと思います。そして、ヨハネ23世とパウロ6世が第二バチカン公会議で『現代世界憲章』という形でパウロの異邦人宣教の精神も踏まえたことによって、現代の教会が大きく世界に向けて開かれ、その後の教皇の歴史の道筋をつけたと言えると思います。
教会はピウス9世からパウロ6世まで、約100年がかりで組織として社会への扉が開かれました。一方で、現代の入試制度は外部の変化に伴った社会課題を意識することを若者に要請し、彼らはオンラインで素早く情報を処理し、チャンスをつかんでいく人が評価される状況に囲まれています。そのような世代からは、おそらく教会はかなりゆっくりとしたペースで動く組織として映ることでしょう。
しかし、ここで考えなくてはならないのは、なぜ教会がゆっくり進むのかということだと思います。その一つの答えが、前回述べた循環的な動きによる歴史神学と聖書釈義学的な教会の展開だと思います。この流れを現代の若い人に理解してもらうためのヒントが、学校の創設者である聖人や修道者の霊性、その生きた時代背景を伝えることかもしれないと考えています。次回は、その具体的な人物例を考察しつつ、教会がゆっくり進む理由と意義について考えていきます。
山田 真人(やまだ・まこと)
NPO法人せいぼ理事長。
英国企業Mobell Communications Limited所属。
2018年から寄付型コーヒーサイトWarm Hearts Coffee Clubを開始し、2020年より運営パートナーとしてカトリック学校との提携を実施。
2020年からは教皇庁いのち・信徒・家庭省のInternational Youth Advisary Bodyの一員として活動。