山田真人
前回の記事では、学生が贈与の体験をすることによって、単にNPOの社会的ミッションに関わるだけではなく、支援国に対して祈りのような支援による関係性に入ることに触れました。それによって、キリスト教の考えるチャリティの神秘に触れ、社会人として経済界で働く上での大事な準備にも繋がります。こうした体験は、人間を本当の意味で豊かにしてくれます。今回は、それに対して貧しさというものをキリスト教はどのように捉えているのかを、聖書をヒントに考え、実践的に深めていければと思います。
聖書の中で「貧しさ」に相当する言葉を数えるのは、とても困難でした。なぜなら、関連する語句が多いからです。例えば、「困窮している状態」(poor)が広義の「貧しさ」ですが、その他に「極度の貧困にある人、何も持たない状態」(destitute)や、「 社会的・経済的に虐げられた人々」(oppressed) 、「何かが不足している状態」(lacking)などがあります。このように見ると、「貧しさ」は肉体的、精神的、社会的、政治的など様々な形で現れます。
この中で、destituteを見てみましょう。stiがstand(立つ)の意味で、それにdeという否定辞が付いていることから「立てない」という意味が原義に近い形になります。例えば、アフリカのマラウイでは、ご飯が食べられず体重が減り、栄養失調になっている子どもを指して、栄養学的にwastedと表現します。聖書では、「虐げられている人に主が砦の塔となってくださるように、苦難の時の砦となってくださるように」(詩編9:10)というように表現され、「苦難」と訳されている言葉です。困窮は主(神)を「砦の塔」と感じることができるための状態とも判断できます。自分の弱さを知っていることが、主の同伴を信じるという「強さ」に繋がるともいえるかもしれません。
たしかに、こうした「貧しさ」の中に豊かさを感じる時があります。NPO法人せいぼが給食支援をしているマラウイでは、人々が「カリブ」と言いながら他人の家やお店に入り、そこにある食べ物を食べたり、突然隣に座って自分の持っている食べ物を分けたりします。とても自然に自分の食べ物を共有している姿が、そこにはあります。マラウイではそれが拡大し、洪水の時に引っ越しが必要になると、地元のメンバーみんなで移動し、お互いに助け合います。北部の標高2,000m近くあるコーヒー農園でも、自然栽培を保つために、隣の農園の人の土地に入り、毒が付いてしまったコーヒーの木を摘出するように指示したり、苗を分けてあげたりしています。こうした助け合いによって社会が守られるため、多くの財産を所有していない状態であっても、生活が成り立っています。
これは私の解釈なのですが、聖パウロも宣教時に異邦人に触れながら自分の弱さを自覚しつつ、異邦人の持つ社会的な弱さを強さと感じていたかもしれません。ガラテヤの信徒への手紙2章10節では、「わたしたちが貧しい人たちのことを忘れないようにとのことでしたが、これは、ちょうどわたしも心がけてきた点です」と述べています。コリントという当時おそらく最も異邦人が多かった場所では、コリントの信徒への手紙二、8章9~10節において以下のように述べています。
以上の文の論理構造的には、「主の貧しさ」というのは最終的に「あなたがたが豊かになる」ことに繫がり、「あなたがたの益」になるとあります。このコリントの信徒への手紙二、8章では、自発的な施しについて述べられているのですが、もし私たちが本当に主への信仰に入るなら、同じように自分の貧しさは豊かさとなり、他の人々の益になるはずです。こうして主から始まった貧しさによる豊かさは循環していき、多くの人の豊かさに繋がります。だからこそ、パウロは一緒にいたテトスに、「慈善の業」をやり遂げるように強く勧めています。
慈善の業、つまりチャリティを実施する過程では、多くの人から批判を受けることもあります。「単なる自己満足ではないか」「本当に効果がある行為なのか」といった言葉は、代表的なものだと思います。短期的に現場を見ると、確かにそのように感じるかもしれません。
しかし、意味がある実践にも、長期的な視野を持つことで、変えることができます。例えば、アフリカ大陸における出生率は、約100年後は世界の65%を占めるといわれています。マラウイは人口の半分が24歳未満の国で、今まで一度も戦争を経験していない唯一のアフリカの国です。こうした国における「貧しさ」「豊かさ」「慈善の業」の循環を知りつつ、具体的に活動をしてみることは、カトリック学校の学生にとって、関わる全ての人にとって重要な信仰の深まりとその結果の実践に繋がります。
山田 真人(やまだ・まこと)
NPO法人せいぼ理事長。
英国企業Mobell Communications Limited所属。
2018年から寄付型コーヒーサイトWarm Hearts Coffee Clubを開始し、2020年より運営パートナーとしてカトリック学校との提携を実施。
2020年からは教皇庁いのち・信徒・家庭省のInternational Youth Advisary Bodyの一員として活動。