ラサへの歩き方〜祈りの2400km


中村恵里香(ライター)

チベット仏教には、五体投地という礼拝の方法があります。五体投地とは、両手・両肘・額を地面に投げ伏して祈るチベット仏教の最もていねいな礼拝の方法です。この五体投地という祈りの方式で2400kmという長い距離を聖地に向かって巡礼することを一生のうちで行くことを希望するといいます。そんな巡礼を描いた映画『ラサへの歩き方〜祈りの2400km』をご紹介します。

『ラサへの歩き方』はチベット自治区の東端、四川省に最も近いカム地方、マルカム県プラ村からお話が始まります。チベット仏教の聖地ラマに行きたいと願っている叔父ヤンペルのために、主人公ニマがラサ巡礼を決めます。ニマが巡礼に行くと知った村人たちの中から、来年が聖山カイラスの巡礼年の午年で、まもなく出産を控えた娘の産む子も午年になり、その婿も午年であることから、ヤンペルの隣人ケルサンが娘夫婦の巡礼参加を願います。そうなると、次々に村人が巡礼参加を願いだし、そのメンバーは家畜解体を生業にする男や家の新築工事で死者を2人出した夫婦、その幼い娘などなど総勢11人の巡礼団になります。

メンバーが決定すると、巡礼の準備に入ります。何十足もの靴を買い、五体投地のための手板や皮の前掛けをつくるなど、その準備は大がかりなものです。リーダーとなったニマが運転するトラクターにはテントや夜具、食料等々がいっぱい積み込まれていきます。

雪が残り、トラックがどんどん走る道での五体投地による巡礼が始まります。途中、妊婦であるツェリンの出産や、落石によるアクシデントなど、さまざまなアクシデントが一団を襲います。その一方で、さまざまな人とも出会います。内容はここで詳しくお話しすることは避けますが、そこには、苦難とともに、生の人間の心あたたまる話もたくさんあります。

この映画の出演者は、プラ村の本当の住人たちです。決して役者さんが演技をしているわけではありません。では、ドキュメンタリー映画なのかというと、監督が事前に人物設定をし、物語としてつくられた作品です。ドキュメンタリー・ドラマという言葉がありますが、ドキュメンタリーでも、ドラマでも、ドキュメンタリー・ドラマでもない、何とも新しい分野の作品です。監督の意図する実在の人物を選び、その人たちが監督の意図に沿って動きつつ、自分たちの心情を本当に吐露しているような何とも不思議な作品です。

でも、この作品を紹介したいと思ったのは、11人の祈りの姿勢です。五体投地で祈りつつ進み、夜はテントで皆が輪になってお経を唱える。そんな祈りの姿勢は、宗教の枠を越え、真の祈りとは何かを問いかけてくれているようでした。

また、トラクターに車が突っ込み、車軸が壊れてしまった時にも、その人がなぜ突っ込んできたのかきちんと話を聞き、怒るのではなく、その人を赦し、先を急がせるそんな姿勢は、私たちが信じているカトリックの精神にも通じるところがあるのではないかとも考えました。

日々の忙しさに追いかけられている生活の中で、祈りにのみ向かい、聖地巡礼するこの作品で改めて祈りとは何か、赦しとは何かを考えさせられました。

 

公式サイト https://www.moviola.jp/lhasa/

監督・脚本:チャン・ヤン/撮影:グオ・ダーミン

出演:チベット巡礼の旅をする11人の村人たち

115分/中国/2015/チベット語/英語題:PATHS OF THE SOUL

 


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