「風の家」さんぽ


早稲田の古書店をいくつか覗いて

神田川の面影橋を通りすぎ

甘泉園公園までやってきました

リュックサックを肩から降ろし

池の端にあるちょっとした石に腰をかける

池では鯉が大きな輪を描くようにゆっくりと動き廻る

亀とわたしはどちらも時を止めているかのようにじっとしている

亀は水面を見つめ

わたしは亀を見つめている

少しの風が頬をかすめていく

井上洋治神父の詩集『南無アッバ』の一篇「亀の心境」(1998年3月4日 甘泉園公園にて)を想っていました

「……

しずかな日ざしをあびながら

一匹の亀が

ゆったりとのんびりと

水の中に手足をのばして

気持ちよさそうに

青い空を眺めていました

……」

ところで、わたしの見ている亀は何を見つめているのだろうか

いまから池に入ろうかと思案中なのかな

井上神父は

「……

雲も花も木も

みんな透きとおって

あちらからの光にとけあっている

そんな景色をきみはみているにちがいない

……」

そうか、その光を感じたくてさんぽしているんじゃないか

と、急にこころが温かくなってきましたよ

鵜飼清(評論家)


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