2018年、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」がUNESCO世界遺産に登録されました。この遺産は「大浦天主堂」など複数の資産から構成されていますが、その内の「久賀島の集落」と「奈留島の江上集落」が位置する五島は独自の風土・歴史があることで知られています。そんな五島の風土・歴史を大切にして蒸留されているジンがあります。五島を代表する花である椿の名を冠した「五島つばき蒸留所」がつくる「ゴトジン」です。
大手酒類メーカーで働いていた創業者が、大量生産・大量消費の酒文化に疑問を覚え、本当にいいものを造ろうと思い、「五島つばき蒸留所」は設立されました。ホームページにはその熱い思いが次ようにつづられています。
「本当によいお酒には、物語があります。人はアルコールに酔うだけではなく、お酒がもつ物語にも酔っていると思うのです。そして、私たちが特に心を惹かれる物語とは「風土」に根ざしたものです。土地のもつ記憶、その土地から生まれる作物、そこで生きる人々の営み・・・いいお酒には、味わいの向こうに、人が生きる「風景」が広がっています。物理的な味わいや香りを超えて、心を包んでくれる「風景のアロマ」がある。人生をもう一度お酒の夢にかけるならば、この「風景のアロマ」に満ちたお酒をつくってみたい。「日本でいちばん」でも「より多くの人に」でも「いつでも」でもなくていい。世界のどこかにいる、私たちと同じようにお酒を愛する人に、「自分がいちばんと思えるものを」「一人ひとりの心に」「ていねいに」届けたい。」[1]
彼らが届けようとしている「風景のアロマ」、それをつくるのに選ばれた場所が五島の半泊でした。弾圧を逃れたキリシタンによって作られた半泊の「風景」、それは祈りの風景でもありました。
五島にキリスト教が伝わったのは1566年のこと。イエズス会士のルイス・デ・アルメイダとロレンソが福江藩(五島藩)で宣教し、藩主となる宇久純尭も1568年に洗礼を受けました。敬虔なキリスト者であったルイス宇久純尭のもとで五島藩の宣教は順調に進むと思われましたが、彼は若くして帰天してしまい、キリスト教は迫害されることとなってしまいます。その後の厳しい弾圧により五島からは一時キリシタンはいなくなったと考えられていますが、江戸時代末期になると大村藩からキリシタンが移住してきて集落を形成し始めます。世界遺産に登録された「久賀島の集落」と「奈留島の江上集落」と同様、「五島つばき蒸留所」のある半泊もこの時期に形成されました。移住者全員が住むには土地が狭すぎたため、半分しか留まることができなかったため半泊という地名になったといわれています。その後、長崎県だけでも信徒発見、浦上崩れ、原爆投下など様々な出来事がおこりながら数百年の時が流れました。今では五島でもカトリック信者の数も減っており、半泊の教会に属している人は一人しかおられないそうです。
そんな半泊の地に惹かれ「五島つばき蒸留所」が誕生したのは2022年のこと。それ以来、数々の高品質なジンを世に送り出してきた同蒸留所は、「下五島シリーズ」などの限定商品も販売してきました。2024年末に発売される限定商品は新上五島町町制施行20周年を記念した「上五島シリーズ」の第三弾「GOTOGIN 空よ雲よ #祈りの陽だまり」です。ラベルには教会が描かれ、五感で「風景のアロマ」を楽しめるようになっております。キリシタンの時代から祈りを受け継いできた五島の「風景のアロマ」を届ける「五島つばき蒸留所」の「ゴトジン」、ぜひご賞味ください!
石川雄一(教会史家)
[1] https://gotogin.jp/about