人はなぜ自分と少しでも違うものを排除しようとするのでしょうか。人種の違いや思考の違い、さまざまなところで異なものを排除しようとします。それは昔も今も変わらないことのように思います。そんな疑問がふと浮かぶような映画に出会いました。
江戸時代前期、北海道は、“蝦夷地”と呼ばれ、松前藩による統治されていました。松前藩にとってアイヌとの交易が主な収入源です。松前藩士・高坂孝二郎(寛一郎)は、兄・栄之助(三浦貴大)と共に、アイヌとの交易で得た物品を他藩に売ることを生業としていました。持参した米俵を、熊や鹿の皮などと交換するのです。
父親が亡くなって1年。交易の旅で初めて蝦夷地に向かう決心をした孝二郎に対して、師範の大川(緒形直人)は、蝦夷で不穏な動きがあることに対して警戒するようアドバイスします。やがて孝二郎は、母(富田靖子)と栄之助の許婚・ミツ(古川琴音)を郷里に残し、高坂家の使用人である善助(和田正人)を伴い、栄之助と共に高坂家の商場である蝦夷のシラヌカへと旅立ちます。
舟の海上ルートを経て蝦夷地へとやって来た一行は、浜辺に野営。旅に慣れず船酔いに悩まされていた孝二郎に対して、栄之助は“蝦夷”という言葉には蔑む意味合いがあり、無礼に当たるため“アイヌ”と呼ぶよう叱咤する。孝二郎は、“アイヌ”という言葉は“人間”という意味だと知るのです。
その夜、栄之助は、強い海風に不安を覚え、荷物の点検に寄ると、善助の不審な行動に勘付きます。彼は品数と交易の歩合との数値を捏造し、横流しを画策していたのです。善助を咎める栄之助は返り討ちに遭い、首元を刺されてしまいます。死を迎えようとしている兄の言葉から、善助が裏切りを働いたことを知った孝二郎は復讐を誓います。
孝二郎は善助を追って森の奥深くへと向かい、道に迷った善助を発見します。斬りかかろうとしますが、脇腹を刺され負傷し、崖から転落して川へ流されてしまいます。そんな彼を助けたのはアイヌの人々でした。マカヨのコタン(村)へと運ばれた孝二郎は手厚く介抱され、次第に治癒していきます。村のリーダーであるアㇰノ(平野貴大)は、和人の言葉(日本語)が話せる人物でした。
回復した孝二郎は、村の手伝いを買って出たいと、アㇰノの娘ヤエヤㇺノに申し出ます。彼女も和人の言葉が話せますが、孝二郎もまたアイヌの言葉を理解するようになっていきます。孝二郎はアㇰノの家族たちと衣食住を共にするうち、アイヌの文化や風習、独特の理念に共鳴していきます。一方、マカヨの村には、孝二郎の存在を疎ましく思う者もいました。リキアンノ(サヘル・ローズ)は別の村からやって来た女性ですが、彼女は3年前のある出来事から和人に対して恨みを持っているとききます。
兄の仇を果たすため河原で鍛錬に励んでいた孝二郎は、アイヌ仲間たちの間でも様々な問題が起こっていることを知らされます。村人の中には、和人のせいで生活が困窮しはじめたことを訴える人もいるといいます。憎しみの炎を燃やさないため、アㇰノは暴力行為には加わらないことを決意しますが、不公平な交易によって利益を独占しようとする和人に対して、アイヌたちの間では蜂起の機運が高まっていきます。
そして、マカヨの村でも同胞による蜂起に賛同する者たちが盗んだ刀を取り返すため後を追った孝二郎は、森で予想外の人物と遭遇します。片目を負傷した善助が、リキアンノたちと待ち合わせをしていたのです。孝二郎は、逃亡中に熊に襲われ、負傷した善助をリキアンノが助けたという驚きの事実を知ります。そして善助は、自分が津軽の隠密で、蝦夷地における知られざる交易の利権争いが存在することについて告白しはじめるのです。
この先は映画館に足を運んで観てください。孝二郎と善助はどうするのか、アイヌの蜂起の結果は、そして孝二郎はどのような行動を取るのか。観るものをアッと驚かせる結末が待っています。
この作品は、ただの歴史を描いたものではなく、現代社会に他者を知るということはどういうことなのかを提示した作品です。現代社会の問題を、歴史を通して問いかけるものになっています。
中村恵里香(ライター)
2024年9月13日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
公式ホームページ:https://sisam-movie.jp/
スタッフ
監督:中尾浩之/脚本:尾崎将也/音楽:戸田信子、陣内一真/エグゼクティブプロデューサー:嘉山健一/プロデューサー:比嘉り子/協力プロデューサー:古賀雪絵/キャスティングプロデューサー:原田浩行/撮影監督:小川ミキ/ギャファー:藤田貴路/録音:高木創/美術:五辻圭/衣装デザイン・スタイリスト:高橋穀 メイクアップデザイナー:MARI/助監督:長谷川卓也/編集:木村悦子 制作担当:越智喜明/VFX:エヌ・デザイン
出演:寛一郎、三浦貴大、和田正人、坂東龍汰、平野貴大、サヘル・ローズ、藤本隆宏、山西惇、佐々木ゆか 古川琴音、要潤、富田靖子、緒形直人
2024年製作/114分/日本/企画・製作:プロテカ/制作プロダクション:P.I.C.S./宣伝:ブロードメディア/配給:NAKACHIKA PICTURES/©映画「シサム」製作委員会