Doing Charity by Doing Business(11)


山田真人

前回の記事では、高校生の学びが「自分ごと―あなたごと―社会ごと」として成長していき、学校にいながら社会と繋がっていく学びを深めていく過程についてご紹介しました。カトリック学校は特に教会と繋がっていくことにより、社会の中で神を信仰する人と出会うこと、さらには自分が神と出会うことにも繋がる可能性があります。それが教会論的にも重要で、さらには現代の福音宣教の骨格にもなります。今回は、NPOが学校と教会の架け橋をしたことがきっかけで、高校で実施した活動を大学になってからも深めてくれている学生の例を上げつつ福音宣教の現代的理解を、教会論にも深めていきます。

平野健太郎さんとカリタス女子高等学校の活動

まず、静岡サレジオ高等学校を出て、上智大学で国際教養を学び、NPO法人聖母の活動に関わってくれている平野健太郎さんを紹介します。彼は学校はカトリック学校で育ちました。高校時代はNPO法人聖母の活動を通して、国際支援を学び、それに関わる具体的な実践を、ソーシャルビジネスを通して学ぶ機会を持ちました。その後大学では難民支援の学生グループに入りながら、NPO法人聖母の学生スタッフリーダーをしてくれています。

現在高校では大学進学を見据えて、ペーパーテストに加え実際の活動実績などを積極的に問う総合型選抜という入試が多くなっています。こうした高校の教育に対応するだけではなく、その後の大学の学びに継続的に影響を与えることができるのが、NPOという組織のユニークな機能だと考えています。平野さんについては、是非こちらもご覧ください。

このNPOの機能が、教会に求められているものと近いと考えています。それは、第三の場所とも考えられる役割です。教会という建物は、使徒言行録2章43~47節で描かれるような神を信仰し、復活したイエスと人格的な出会いを果たした人々の生活のアレゴリーとも言えます。この教会は聖書で描かれるように、具体的にそこにいる人々の活動によって、属する人が神との出会いを体験し、信仰を更新していくことを求められているとも言えます。パウロ6世によって第二バチカン公会議の閉幕10周年で書かれた使徒的勧告『福音宣教』(1975年)では、「生活によるあかし」を求めています。

こうした世の中との対話的福音宣教ができるのが、カトリック精神に影響を受けたNPOのような第三組織であり、社会的ミッションを持った団体の存在意義でもあります。

次に、シノドス(代表司教会議)を率いたパウロ6世の『福音宣教』から約50年後、その「シノドス」とは何かを考えるためのシノドスの閉幕を意識して実施された教皇講話集『識別』にも触れてみます。「シノドス」とは「ともに歩む」という意味のギリシャ語で、日本司教団は、「ともに歩む教会」をカトリック教会が目指している教会の姿としています。『識別』の序盤では、様々な選択を積み重ねることで、神と出会っていくことが識別であると述べています。その識別をする上で助けになる行為として、祈りと慈善の業を挙げています。自分たちが一度立ち止まって周りを見渡してみること、自分にできることを考えてみることが、慈善の業に繫がり、その瞬間は全て祈りです。この識別を助けることも、教会の福音宣教において重要なことであり、NPOが具体的な慈善の業を学生に伝えることで、識別の役に立てることにもなります。

2021年10月、シノドス開催時の著者(右):初めて20人の若者がシノドスに参加した

先にご紹介したシノドス関連の教皇文書である『福音宣教』(1975年)から約10年前、教皇ヨハネ23世は『パーチェム・イン・テリス』(1963年)の中で、教会として初めて国際的な共通善に教会が関わることについてはっきりと触れていると思います。そこからパウロ6世からシノドスが始まり、国際課題の中で教会が何を優先すべきか、どんな役割を持つべきかを識別してきて、教皇フランシスコの『識別』(2024年邦訳出版)に至っていると思います。

こちらの記事では、現在のバチカンの優先課題が国際協力と青年教育ではないかという仮説について紹介しました。この二つの課題に具体的にアプローチしつつ、教会論の歴史の中で求められてきている福音宣教を体現していく方法の一つとして、NPOに関わる学生との協働を、さらに進めていければと思います。それが真に教会が求めていて、この連載のテーマである “Doing Charity by Doing Business”のCharity(慈善の業)を識別の中で磨いてくれると思います。

 

山田 真人(やまだ・まこと)
NPO法人せいぼ理事長。
英国企業Mobell Communications Limited所属。
2018年から寄付型コーヒーサイトWarm Hearts Coffee Clubを開始し、2020年より運営パートナーとしてカトリック学校との提携を実施。
2020年からは教皇庁、信徒、家庭、いのちの部署のInternational Youth Advisary Bodyの一員として活動。

 


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

eleven − 1 =