酒は皆さんとともに

ドンペリニヨン


石川雄一(教会史家)

クリスマスや忘年会のある12月に続き、お正月や新年会のある1月、年末年始には乾杯をする機会が増えます。シャンパーニュ・ワインシャンパンは、こういった祝いの席に彩を添えます。そんなシャンパーニュの代名詞といえば「ドンペリニヨン」だと思われます。ドンペリの愛称でも知られる「ドンペリニヨン」は、高級シャンパンの代名詞でもあり、お金持ちのシンボルの一つであるともいえるかもしれません。ですが、「ドンペリニヨン」の名が一人のベネディクト会修道士に由来していることを知っている人は、そう多くはないのではないでしょうか。今回はそんな「ドンペリニヨン」の歴史を紐解いてみましょう。

1638年、ドン・ペリニヨンとして知られることとなるピエール・ペリニヨンは、フランスのシャンパーニュ地方で生まれました。彼の親戚はワイン農家をしていました。若きペリニヨンも収穫や醸造を手伝ったのかもしれません。そんなペリニヨンさんは、世俗のワイン農家としての生ではなく、修道士として生きることとなります。17歳でベネディクト会に入会したペリニヨンさんは、修道士ペリニヨン、即ちドン・ペリニヨンとなります。ドン(Dom)とは、ラテン語の主ドミヌス/dominus)に由来するとされる、ベネディクト会修道士の呼称なのです。つまり、ドン・ペリニヨンは「ブラザー・ペリニヨン」とも訳せるかもしれません。

1668年、ドン・ペリニヨンはオーヴィレール修道院の醸造責任者に任命されます。以降、1715年に帰天するまでの47年もの間、彼は修道院のブドウ畑の発展と良質なワイン醸造に心血を注ぎます。そんな彼の最大の業績が、スパークリングワイン醸造技術の向上でした。ペリニヨン以前のシャンパーニュ地方では、白・赤ワインの双方が醸造されていましたが、フランス北部に位置する冷涼な気候のため、その味は糖分が少なく酸っぱく、あまり評価されてきませんでした。そこでドン・ペリニヨンは、従来の赤・白ワインではなく、それらを混ぜ合わせアッサンブラージュ/assemblage)、さらに瓶内二次発酵によりワインを人工的に泡立てることでスパークリングワインとしたのです。ドン・ペリニヨン以前にも英国でスパークリングワインが飲まれていることが判明しているため、彼を「スパークリングワインの父」と呼ぶことはできませんが、それでも「シャンパーニュ・ワインの父」と呼ぶことはできます。

そんなドン・ペリニヨンに敬意を表して名づけられた高級ワインが「ドンペリニヨン」です。残念ながら彼のいたオーヴィレール修道院はフランス大革命で破壊されてしまったため、現在、「ドンペリニヨン」は教会の手を離れ、ルイ・ヴィトンなど高級ブランドを売るLVMHにより販売されています。「ドンペリニヨン」は、なかなか気軽には飲めない高級ワインですが、年末年始のお祝いの時期に奮発して購入してみてはいかがでしょうか。


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