ロシア第二の都市、サンクトペテルブルクで、8月23日から27日にかけて「第10回 ・全ロシアカトリック若者の集い」が開かれました。この集いは8月のはじめ、リスボン で開催されたワールドユースデイ(WYD)を継承するもので、テーマもWYD と同じ「マ リアは出かけて急いで山里に向かった」(ルカ1:39)です。ちなみに、WYD にはカ ザフスタンなどロシア語言語圏から150人が参加、そのうち17人がロシアからです。 ロシアの若者の集いには、西はカリーニングラードから東はウラジオストックまで、54都市から約400人が参加、中には9000キロ離れた遠方からの参加者もいました。 初日と最終日の会場は「おとめマリア、エリサベト訪問聖堂」、まさにテーマにふさわし い名前の聖堂でした。 集いの中で、だれもが大きな期待を寄せ、待ちに待ったのは、3日目の、バチカンの教皇 フランシスコと、当日の会場、聖カタリナ大聖堂をつないで行われたビデオ中継です。こ こではその模様を中心にご紹介することにします。 ロシアカトリック評議会議長パウロ・ペッツィ大司教は、冒頭の挨拶で、「わたしたちは、 この集いがリスボンで開かれたワールドユースデイとつながることを願っています。わた したちは物理的にはお互いに遠く離れていますが、現代のテクノロジーのおかげで、お互 いに目と目、顔と顔を見合わせながら話すことができます。教皇さまがおっしゃるように、 マリアとエリサベトのようにお互いに霊的に抱擁することができます」と集会の意義を話 されました。 「この集いが、わたしたちにとってとりわけうれしいのは、教皇さまが参加してくださっ たことで、わたしたちが国内の教会の中での一致だけでなく、世界じゅうの教会との一致 を体験できることです。」 「中継が始まったとたん、パパさまが本当にロシアにいらしたような気がしました。その 瞬間、わたしたちの教会は大きく、ひとつにまとまっていて、ロシアのカトリック教徒は 忘れられていない、気遣われていると意識することができました。パパさまの笑顔を見る ことができ、また笑顔で返してくださって、とてもうれしかったです。」 集いのコーディネーターやビデオ中継担当者の、こうした発言からも、期待と喜びが伝わ ってきます。
けれども、ウクライナへの軍事侵攻の終結が見えない中、戦争はだれにとっても重くのしかかっています。この日の教皇フランシスコの説教にも、最終日のペッツィ大司教の説教にも、参加者の質問にも、戦争と平和の問題が大なり小なり取り上げられていました。
教皇フランシスコは、グループごとの分かち合いに役立つように、3つのアイデアを提案されました。
1つめは、出発という呼びかけ、
2つめは、神の愛はみんなのもの、教会はみんなのもの、
3つめは、若者と高齢者が互いに心を開くことが大切、
という3点でした。
高齢者のわたしに印象的だったのは、3つめのアイデアの、つぎのお話でした。
「マリアとエリザベトの出会いの場所は夢でした。ふたりは夢を見ました。若者は夢をみます、老人も夢を見ます。預言者ヨエルが『老人は夢を見、若者は幻を見る』(ヨエル書3:1)と言ったように、まさしく夢が、夢見る力が、未来へのビジョンが、世代の結びつきを保ち、これからも保ち続けます。年老いた世代が民主主義と民族のつながりを夢見るとき、若者は預言し、周囲の環境と平和を守る職人になるよう呼ばれています。
年老いたエリザベトは、年若い恵みに満ち、聖霊に導かれたマリアを、知恵で強め、励ま
します。」
政治的危うさが顕著な昨今の日本の、高齢者のひとりとして、教皇さまがおっしゃるように民主主義を夢見、大切にしていきたいと思います。
続いて教皇フランシスコは、「親愛なるみなさん、教区の主任司祭の、退屈になるような長い説教を、わたしは好みません」と会場の笑いを誘い、「みなさん、橋の建設者になりましょう。あなたがたの先を歩む人びとの夢を知って理解し、世代間をつなぐ橋を架けるのです」と戦争と平和の問題にテーマを移されました。
「ロシアの若者よ、わたしたちの世界があらゆる面で破壊にさらされ、多くの紛争と対立のある中で、あなたがたは平和の職人になることを使命としてください。和解の、小さな種をまく人になってください。戦争という冬のさなか、凍った大地にすぐに芽を出すことはないでしょう、しかし、いつか春が来れば花は咲きます。わたしはリスボンで、『恐れを夢に替える勇気をもちなさい』と言いました。恐れを夢に取り替えるのです。恐れに支配されるのではなく、自ら夢の企業家になってください。大きな夢をみる贅沢を自分に許してあげてください。
親愛なる若人よ、あなたがたの夢、希望、恐怖、苦悩をわたしと分かち合ってくれてありがとう。バルバーラ(*)、ご家族の物語を証ししてくれてありがとう。アレクサンドル、これまでの人生を証ししてくれてありがとう。きょう、この場で、いくつかの証しを分かち合ってくださったみなさんに感謝します。みなさん、マリアに視線を向け、神を見いだし、心の中で神と出会い、すぐに急いで遠くの人に届けてください、神を必要としている人に神を届けてください。マリアのように希望の旗、平和と喜びの印になってください。マリアの《主のはしための小ささによって》、あなたがたも自分の物語を変えることができるのです。ご自分の祖父母のルーツに支えられ、未来のために冒険をしてください。」
自分が生まれた国が戦争加害国として非難をあび、制裁を科せられ、国際的に孤立化していく中で、教皇フランシスコの、心の奥深くに届けられた呼びかけに、集いに参加した若者たちはどんなに慰めと励ましと勇気をいただいたことでしょう。きっとそれぞれに「平和の職人」として、その使命を見いだしていくことでしょう。
集いの5日目は、再び、おとめマリア、エリザベト訪問聖堂に戻り、まぶしいほどの光をあびた野外でのミサと分かち合いでした。自然のままに草の生えた広い庭には、小さな女の子も、おばあさんも、犬もいます。屋外という開放的雰囲気も手伝って、1日目と比べて、女性も男性も若者たちはみんな見違えるほど明るい表情で、くつろいだ様子です。画面を見ているわたしまで楽しくなりました。
わたしの、この小さな、つたない記事が、戦争の1日も早い終結と平和を願うロシアの人びととの「霊的抱擁」につながりますよう願ってやみません。
2023年9月8日、聖マリアの誕生の祝日に。
大井靖子(カトリック調布教会)
(*)バルバーラもアレクサンドルも、教皇フランシスコの説教の前に、それぞれの信仰
体験を証しています。
(出典)
Рускатолик.рф.
Конференция католических епископов России
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