『古代オリエント全史――エジプト、メソポタミアからペルシアまで4000年の興亡』


『古代オリエント全史――エジプト、メソポタミアからペルシアまで4000年の興亡
小林登志子:著、中公新書、2022年
定価:1210円(税込み)   336ページ

 

前回のbook-zoom-inでは、『アケメネス朝ペルシア』を紹介しました。その際に、旧約聖書理解には古代オリエント史の知識が不可欠であると述べましたが、今回は、その古代オリエント史全体を俯瞰することができる『古代オリエント全史――エジプト、メソポタミアからペルシアまで4000年の興亡』を紹介いたします。

前回の『アケメネス朝ペルシア』が、古代ペルシア、特にキュロス大王から始まるとされるアケメネス朝に焦点を当てた入門書であったのに対し、今回の『古代オリエント全史』は、その名が示す通り、4000年に及ぶ長大な歴史を一冊の新書にまとめた概説書です。著者の小林登志子は、長らくNHK学園やNHK文化センターで古代オリエント史の教鞭をとってきた先生ですので、この本は、古代オリエントに関する知識があまりない一般の方に最適な教科書的な一冊となっています。

さて、本書が対象とする時代は4000年、つまり40世紀に及びます。現在、西暦が21世紀なので、何と本書が扱う期間は、西暦の2倍以上の長さにもなるのです。本書は、その長大な古代オリエント史を単に時系列的に叙述するのではなく、地域ごとに分けて概観します。つまり、アッシリアやバビロニアが栄えたメソポタミア現在のイラク、大国に蹂躙されるシリア地域、現在のトルコにあたるアナトリア、ミイラに代表される独特な歴史・文化を築いたエジプト、そしてアケメネス朝ペルシアを生み出したイランの歴史が章毎に語られます。また、最終章では古代オリエントを征服したアレクサンドロス大王のヘレニズム帝国、その文化的継承者であるローマ帝国、そして中世以降にオリエント地域を支配するイスラームの歴史が簡単に扱われます。つまり、本書を読むことで、旧約聖書成立以前の時代からイエス様の生きた時代、そしてキリスト教が確立する時代にまでのオリエント世界の歴史を知ることができます。この気の遠くなるような長い歴史を、時間と共に学ぶ「縦の歴史」と、地域ごとに学ぶ「横の歴史」の双方から眺めることで、立体的な歴史理解を育むことができます。また、地図や資料の写真も多く挿入されているため、ヴィジュアル面での理解の助けにもなるでしょう。

古代オリエント文明を知らずして、今日に至るまでの人類の営みを理解することはできません。中近東は言わずもがな、西欧文明は古代オリエント世界を征服した遺産を受け継ぎ、シルクロードを通じて日本の文化にも影響を与えているからです。そんな古代オリエントの基礎を『古代オリエント全史』で学んでみませんか。

石川雄一(教会史家)

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