『アケメネス朝ペルシア――史上初の世界帝国』
阿部拓児:著、中公新書、2021年
定価:968円(税込み) 280ページ
旧約聖書を読んでいると、古代オリエント史に関する知識が必要な個所が度々登場します。アジア(中東)とアフリカ(エジプト)の間に位置するイスラエルは、古代オリエントで地政学上重要な地域であったため、周囲の大国に翻弄される歴史を歩んできたからです。例えば、列王記や歴代誌は古代イスラエルの歴史をつづった史書であるため、アッシリアやエジプト、そしてユダヤ人を「バビロン捕囚」の状態にした新バビロニアといった周辺諸国が登場します。続くエズラ記、ネヘミヤ記、エステル記では、「バビロン捕囚」から解放された後のイスラエルの歴史が、新バビロニアを滅ぼしたペルシアとの関係と共に記されています。このように、旧約聖書を理解するためには、古代オリエント史の知識が不可欠です。そこで今回は、ユダヤ人を「バビロン捕囚」から解放し、エズラ記、ネヘミヤ記、エステル記で重要な役割を果たすアケメネス朝(アカイメネス朝)ペルシアの歴史を概観することができる『アケメネス朝ペルシア――史上初の世界帝国』を紹介します。
北イスラエル王国を滅ぼしたアッシリアと並び、全盛期にはアジア・アフリカ・ヨーロッパの三大陸に領土を保有していたアケメネス朝ペルシアは、副題にもある通り、「史上初の世界帝国」と呼ばれます。紀元前6世紀のキュロス大王の時代から前4世紀のダレイオス3世の時代までオリエント世界を支配したアケメネス朝ペルシアは、アレクサンドロス大王に滅ぼされ、新たにギリシア人が東方の覇者となります。ですが、ヘレニズム帝国とも呼べるアレクサンドロス大王の帝国にペルシアの遺産は受け継がれ、それは後のローマ帝国を通じて、中世のビザンツ帝国や神聖ローマ帝国にも受け継がれ、近世のロシア帝国にも影響を与えます。いささか大げさに言い換えるならば、アケメネス朝ペルシアは、前近代的な帝国の父なのです。
そんなアケメネス朝ペルシアの歴史を、歴代の王を追いながら鳥瞰したのが、今回紹介する『アケメネス朝ペルシア』です。しかし、本書は巷に溢れるただの概説書ではなく、アケメネス朝史を調べるために用いられる史料から、ポリティカル・コレクトネスなどに配慮した最新の研究動向までも紹介される本格的な入門書です。また、キュロス大王の出生の秘密や家祖アカイメネスの実在などの興味深い様々な歴史上のミステリーにも挑んでおり、著者の熱意を感じながら、楽しく読み進めることができる一冊となっています。もちろん、聖書との関係に触れた項もあり、新たな知見が得られること請け合いです。『アケメネス朝ペルシア』を読んで、見識を広げてみませんか。
石川雄一(教会史家)
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