佐藤ひろみ(絵本セラピスト)
大人になって絵本を開くと、子どもの頃とは違う感動を得る瞬間があります。言葉が心に染みたり、絵の美しさに目を奪われたり、人生経験を積んだ今だからこそ、共感できる絵本があります。そんな絵本との出会いは、大人の心も素直にしてくれます。
ノンフィクション作家の柳田邦夫さんは、「絵本には、人生に3度、読むといい時期がある。1度目が幼いとき、2度目が子育てのときだ。簡単な言葉だが、大切なことが書かれている文章と、印象的な絵が描かれた作品が、子どもの心の成長や感情の発達を助けてくれる。3度目に読むといいのは、子どもが独立したり、自らが年老いて、孤独や病にさいなまれたときだ。難しい哲学書や小説を読むのはしんどいが、ゆっくりと声に出して絵本を読む行為は、ずんずんと心の深いところに響く。」と語っています。
私自身、50代に入って間もなく、そうした体験をする機会がありました。当時の私は、日々の生活と多忙な保育園の園長業務と老いていく両親の介護に、心身ともに疲弊しておりました。口から出るのはため息ばかりの毎日。そんな時、ネットで、絵本のソムリエ岡田達信氏の「大人に絵本をひろめ隊®︎入門講座」という講座をみつけました。「絵本は子どものもの」と思っていた私は、興味深く、その講座に参加しました。その時、私は、大人になって、初めて誰かに絵本を読んでもらうという体験をしたのです。その時に読んでもらった絵本が、「りんごがたべたいねずみくん」でした。
保育に長年関わっている私にとって「りんごがたべたいねずみくん」の絵本は、数えきれない位、園児に読んできた絵本です。
りんごが食べたいねずみくんはりんごの木の下でりんごを見上げています。そこへ、鳥くんがやってきて木の上のりんごを一つとります。「僕にも翼があったらなあ」と鳥を羨むねずみくん。次に、猿くんがやってきてりんごを一つとります。「僕も木登りできたらなぁ」と思うねずみくん。次々に動物がやってきてはりんごをとっていきます。その度に、ねすみくんは、その動物を羨むのです。最後にあしかくんかやってきました。あしかくんも木の上のりんごは取れないけど、あしかくんが自分の鼻でねずみくんを乗せて、2人で力をあわせたら、りんごがとれたよ。というお話です。
私は、この「りんごがたべたいねずみくん」を読んでもらって、涙が止まらなくなりました。ずっと胸につかえていた想いが吹き出してきたのです。
私は、何もかも「自分1人でやろう」と頑張ってきたのです。園長という肩書に、「弱音を吐いちゃいけない。甘えてはいけない。迷惑をかけてはいけない」と無理をしていました。私は周りの人が羨ましかったのです。みんなが楽をしているように見えました.私は「ねずみくん」そのものだったのです。でも、この絵本は「もう1人で頑張らなくていいんだよ。助けを求めてもいいんだよ」と私に気付かせてくれました。私の心は軽くなりました。
私は、どの絵本も、作家が「自分の人生で一番大事だと感じていることを描いている」と感じています。
先日、私の父の三回忌がありました。亡くなった人は、周囲の人の心のなかで生き続ける、と言われています。この考え方は絵本のなかにも息づいており、スーザン・バーレイの作品「わすれられないおくりもの」もそのひとつだと思っています。
世界の悲しいニュースが続く中、大人も絵本で笑顔になり、自分にも他人にも優しくなれたら素敵です。
皆様の明日が笑顔に包まれますように。
その笑顔の連鎖が世界の平和につながりますように。
祈りつづけたいと思います。
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<プロフィール>
佐藤ひろみ【ひろりん】
1958年北海道札幌市生まれ。
笑顔の発信地「ひろりんランド」代表。
絵本セラピスト®︎