ヒトラーのための虐殺会議


ロシアのプーチン大統領がウクライナに侵攻を始めた当初、うろおぼえですが、ナチスを撲滅するためにウクライナに侵攻するといっていました。ウクライナがナチス? どういうことなのだろうと思いつつ、なぜ今侵攻しなければならないのか、という疑問がわいてきました。

もう一つ、ヒトラー率いるナチスドイツを描いた映画はたくさんありますが、なぜ、ナチスを率いたヒトラーがユダヤ人虐殺に走ったのか、その理由が私にはよくわかりませんでした。それを知りたいと思いつつ、なぜ周りの人間は止めることができなかったのかということも疑問に思っていました。今回ご紹介する映画は、その理由を詳細に描いたものではありませんが、大量虐殺の契機となる実際に行われた会議の詳細を描いた映画です。

ヨーロッパではすでにユダヤ人への迫害が始まっていた1942年1月20日、ドイツベルリンのヴァンゼー湖畔の別邸でとある会議が始まろうとしていました。国家保安本部長官のラインハルト・ハイドリヒ(フィリップ・ホフマイヤー)が主催し、議題は“ユダヤ人問題の最終解決”です。アイヒマン親衛隊中佐(ヨハネス・アルマイヤー)が準備を進めていると、ミュラー親衛隊中将(ジェイコブ・ディール)は、到着後すぐに会議室に向かい、座席を確認し、気にくわない者を下座に移動させます。次々と高官たちが到着し、最後に到着するのは、主催者であるハイドリヒです。

正午を迎え、15名の高官によって会議が始まります。会議の冒頭、ハイドリヒが「組織面、実務面、物資面で必要な準備をすべて行い、ヨーロッパのユダヤ人問題を総合的に解決せよ。関係中央機関を参加させ、協力して立案し検討するように」というゲーリング国家元帥の言葉を伝えることで会議の目的を明確にします。そして「ユダヤ人問題の最終解決を実施せよ」という全ユダヤ人の絶滅を目標に掲げることをしまします。さらに議題に移る前に、ゲーリング国家元帥の指示により、以降のユダヤ人問題の最終解決は、ヒムラー親衛隊全国指導者の管轄であり、ハイドリヒが権限を持つと宣言します。

最初の議題は、ポーランド総督府管轄となるアウシュヴィッツへの輸送についてです。ユダヤ人の全人口は、1,100万人です。参加している高官たちが疑念点を挙げると、国家保安本部ゲシュタポ局ユダヤ人課の課長・アイヒマンが監督責任を負うと明言し、巧みな輸送方法を提案することで、満場一致で同意することになります。

次に、強制労働について話が進みます。東部をゲルマン化するために、必要な道路建設現場などの重労働を課すことで、過労死を狙い、過労死しなかった者は“特別処理”を行う計画を提案します。この方策にも全員が賛同します。

最後に、疎開の対象について話し合われます。ドイツ国籍以外のユダヤ人、ユダヤ人の定義とその対象についてが話し合われますが、その定義は複雑化します。一時中断しますが、アイヒマンから建設中のアウシュヴィッツ強制収容所での具体的な敬作が説明されます。すると、出席者全員から安堵の表情が浮かび、“ユダヤ人問題の最終解決”が決定されます。国家機密である確定事項は議事録に残され、出席者全員に共有されることになります。

この作品、実際に行われた90分の会議を忠実に再現したものだそうです。私にはゲルマン化という言葉も、ユダヤ人絶滅という言葉にも拒絶感しかありませんでした。この会議によって、ホロコーストは加速し、600万人のユダヤ人が殺害された事実を私たちは、歴史の事実として受け止める必要があります。一人の指導者によってさまざまな意見が押さえ込まれ、最終的に悲惨な事実が浮かび上がってきます。今、改めて戦争を起こすということはどういうことなのか、深く考えさせられる作品です。決して楽しい映画ではありませんが、今の時期だからこそ、観る価値のある作品です。ぜひ映画館に足を運んで観てください。

中村恵里香(ライター)

2023120日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開!

公式HPhttps://klockworx-v.com/conference/

 

監督:マッティ・ゲショネック

キャスト:フィリップ・ホフマイヤー、ヨハネス・アルマイヤー、マキシミリアン・ブリュックナー

2022年/ドイツ/112分/原題:Die Wannseekonferenz/英題:THE CONFERENCE/字幕翻訳:吉川美奈子/配給:クロックワークス

(c)2021 Constantin Television GmbH, ZDF

 


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