星を見つめて


『星を見つめて』
エツァルト・シャーパー著、阿部祐子訳、女子パウロ社、2022年。定価:1320円 104ページ

 

福音書にはイエス様に出会った多くの人が登場します。ペトロら使徒をはじめとして、マグダラのマリア、マルタ、ラザロなどの個性的な人々が、イエス様と出会って人生を変えられたことが聖書には記されています。と同時に、「つのパンと匹の魚」を分け合った群衆や癒された病人など、個人名が記録されていない大勢の人もイエス様に出会っています。つまり、聖書では具体的に言及されていないけれども、直接イエス様と出会って救われた人々が沢山いるのです。

こうした無名の人々の存在は、昔から作家の想像力を刺激し、多様な文学作品が書かれてきました。19世紀末に書かれて映画化もされた『クォ・ヴァディス』や『ベン・ハー』はその代表と言えるでしょう。今回紹介するエツァルト・シャーパー(Edzard Schaper/1908〜1984)の小説『星を見つめて』(原題:Die Legende vom vierten König)もそんな作品の一つです。

マタイ福音書章によると、「ベツレヘムの星」に導かれた「東方の三博士」がお生まれになったイエス様を拝みにきました。この光景は数々の絵画で描かれてきましたし、「プレゼピオ」と呼ばれる馬屋の模型として今日でも人々に親しまれています。『星を見つめて』は、この有名なイエス降誕の場面から十字架の受難に至るまでの聖書の物語を、想像を交えて描いた文学作品です。

聖書によると幼子イエスを礼拝に来たのは「東方の三博士」ですが、この物語は聖書には登場しない「四人目」がいたと想定して、その「四人目」の旅を描きます。主人公である架空の「四人目」はロシアの小さな国の若い王様であり、「王の中の王」であるイエス様を礼拝するため、立派な贈り物を携えてベツレヘムに向かいます。ですが、予想外の出来事の連続により「四人目」はベツレヘムに直行することができなくなります。長く苦しい旅の中で色々な問題に直面することとなる「四人目」は、様々な挫折や失望を経験しながら、神様のもとへ向かっていきます。

著者のエツァルト・シャーパーは20世紀初頭にプロイセン(地理的にはポーランド、政治・文化的にはドイツの地域)で生まれたカトリック作家です。彼の出身地と生まれた時代からも予想できるように、彼はナチスのファシズムとソ連の共産主義の双方から迫害されました。著者が経験した苦しみと彼を支えた信仰に裏打ちされた『星を見つめて』は、読む人の心を動かす感動的で敬虔な短編小説です。約100頁の短さに加え、挿絵もあり、読みやすい文体で翻訳されているため、老若男女問わずにお薦めできる一冊となっています。

石川雄一(教会史家)

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