1 聖霊降臨の音楽


松橋輝子(東京藝術大学音楽学部教育研究助手 桜美林大学非常勤講師)

 

聖霊降臨の主日は、聖霊降臨の出来事ならびに教会とその宣教活動の始まりを祝うものです。この喜びにあふれた祝日のために様々な典礼用音楽が歌われ続けています。

 

まず日本のカトリック教会において聖霊降臨に際して歌われてきた聖歌、『みたまよ来たりて』について紹介します。この聖歌は、1918年『公教會聖歌集』の中で日本の聖歌集に初めて登場し、その後、『公教聖歌集』を経て、『カトリック聖歌集』にも収録されています。この聖歌も、他の多くの日本語聖歌と同様に、起源をドイツ語の会衆歌にさかのぼることができます。しかしこの聖歌で注目すべきことは、その旋律の起源がさらにグレゴリオ聖歌にさかのぼることができることであり、いわばその短縮版であることです。

 

まず、日本語聖歌として『みたまよ来たりて』をお聞きください。

 

続いて、もとのグレゴリオ聖歌〈来たり給え、創造主なる聖霊よVeni Creature Spiritus〉をお聞きください。このグレゴリオ聖歌〈Veni Creature Spiritus〉は聖霊降臨祭のための賛歌で、9世紀ころに成立したといわれています。有名な賛歌として、翻訳やパラフレーズがなされて普及し、聖霊降臨の主日や他の機会にも頻繁に歌われています。

 

 

 

グレゴリオ聖歌をより歌いやすく拍節的に編曲することは、ルター派のコラール(会衆賛歌)の伝統の中にも多くみられ、より親しみやすく、歌いやすくする工夫といえます。ルター自身、このグレゴリオ聖歌〈Veni Creature Spiritus〉に基づいて、コラール〈Komm, Gott Schöpfer, Heiliger Geist〉を作曲しています。このコラールは、バッハが四声コラールに編曲しています。

 

もう一つ、ルター派の聖霊降臨祭のコラールとして有名なものには、〈来たれ聖霊、主なる神 Komm, Heiliger Geist, Herre Gott〉があります。これもまた中世のアンティフォナ(交唱賛歌)〈Veni Sancte Spiritus, reple tuorum corda fidelium〉に基づいてルターが作詞し、編曲したものです。このコラールは、その後、様々な音楽作品に引用されています。

 

バッハのオルガン作品〈Fantasia super Komm, Heiliger Geist, canto fermo in Pedale〉BWV 651はその一例です。壮麗なトッカータ風ファンタジアとして作曲されています。トッカータとは、主に鍵盤楽器による、早い痩躯や細やかな音型の変化などを伴う即興的な楽曲であり、技巧的な表現が特徴です。こうした技巧的なパッセージ(楽句)の中で、風が吹き渡るように私たちの心を満たす聖霊の働きが音楽化されています。

 

譜例で示している通り、長い音価で定旋律を担うペダルの上で、上三声が模倣的に絡み合っています。これがまさに、輝かしい聖霊をあらわしているといえるでしょう。定旋律のクライマックスに当てはまる後半の装飾的主題は聖霊賛美を象徴しています。

 

このように、グレゴリオ聖歌や伝統的な賛歌に由来する旋律は、音楽素材として器楽作品、声楽作品かかわらず、様々な作品に用いられ、さらに時代や地域を超えて現在の典礼においても用いられています。


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