チェルノブイリ1986


ロシアがウクライナ侵攻を始めた時に、ロシア軍がチェルノブイリ原発を占拠したというニュースが流れました。廃炉作業を進めているはずのチェルノブイリ原発を選挙してロシアは何をしたいのだろうと感じたのはわたしだけではないと思います。

旧ソビエト連邦時代の1986年にチェルノブイリ原発の爆発事故が起こったとき、原発が事故を起こすということをはじめて知り、その後どういうことになるのか不安に思ったことを想起させる映画が現在公開中です。ロシア映画『チェルノブイリ1986』をご紹介します。

1986年、ソビエト連邦のブリビチャで消防士アレクセイ(ダイニエーラ・コスロフスキー)は、10年前に別れた恋人オリガ(オクサナ・アキンシナ)と再会を果たします。10年ぶりの再会で、アレクセイは、今もオリガを愛していると再認識し、2人は楽しいひとときを過ごします。楽しい時間はあっという間に過ぎ、夕方オリガの家のそばまで送るのですが、離れがたく、家に入るオリガの後を追います。そこで、オリガはこの町の美容院で働き、1人で10歳の息子を育てていることを知ります。自分が父親だと察したアレクセイは、オリガと共に新たな人生を踏み出したいと、チェルノブイリ原子力発電所の消防署から他の地域への消防署への異動を希望します。

アレクセイの送別会が行われた翌日の4月26日未明にチェルノブイリ原子力発電所で爆発事故が発生します。明け方になってアレクセイは現場に向かいますが、すさまじい黒煙と青白い炎が立ちこめるのを目撃します。現場では通常の防火服でしょうか作業に当たる消防士たちが放射能生のやけどを負うすさまじい現場となっていました。

仲間の救助活動後、病院で手当を受けていたアレクセイは、原発の地下通路の構造に詳しいということで事故対策本部の会議に招集されます。そこで知らされたのは、4号炉から溶け出した核燃料が炉の下にある貯水タンクに達すると、大規模な水蒸気爆発が発生するというものでした。万一それが現実化すると、大量の放射性物質がまき散らされ、ヨーロッパ全土が汚染される大惨事を招くというのです。水蒸気爆発を回避する手段は、誰かが命がけで放射線量が高い地下に行き、貯水タンクの排水弁を手動で開くというものでした。

あまりに危険な作業のためにアレクセイは辞退し、オリガのもとへ向かいます。原発事故発生時に近くにいた息子は、被爆したために体調不良を訴えていました。まちからの退避命令によって軍の誘導によって避難用のバスに乗りますが、目の前で苦しげに嘔吐する息子の姿を見て、意を決してバスを降り、事故対策本部に戻ります。事故対策本部に戻ったアレクセイは、スイスの病院で息子の治療を受けさせることを条件に水蒸気爆発を阻止するための決死隊に志願します。

アレクセイのほか、原発技師のバレリー(フィリップ・アヴデーエフ)と軍のダイバー、ポリス(ニコラ・コザク)の3人は、決死隊として防護服をまとい、アレクセイが提案した最短ルートをたどり、地下の排水バルブを目指します。

さて、ここからは観てのお楽しみです。無事バブルを開くことができるのか、アレクセイの運命は、息子は治るのか、そして。オリガとアレクセイの行く末は……。ハラハラドキドキの展開が待っています。

人は一人では生きていけません。生きる上で自分のためだけでなく、誰かのため、愛する人のため、守りたい人のためと生きる信条を持って生きています。そんなことを深く考えさせられる映画です。

 

今、ウクライナ侵攻をしているロシアの映画を紹介することに,実は躊躇がありました。しかし、あえてここで紹介させていただくことにしたのは、『チェルノブイリ1986』のホームページに監督のダニーラ・コズロフスキーとウクライナ人で製作のアレクサンドル・ロドニャンスキーがコメントをだしていました。その一部をご紹介します。

「今起こっていることは、大惨事だ。全ての意味においての大惨事、すなわち人間的、人道的、政治的、経済的といった、あらゆる意味において、である。僕は心の底から自分の国を愛している。そして真の愛国主義とは、自分が本当に感じ経験している真実を語る断固たる姿勢だと常に考えている。(中略)

兵士や民間人が亡くなり、ミサイルが住宅を攻撃している。たとえ政治に通じていなくても、これにはいかなる正当性もないことははっきり分かる。尊敬すべき大統領、直接呼びかける無礼をお許しください。ですが、この恐ろしい不幸を止められる力があるのは貴方だけなのです。

僕たちは、ある高官が表現しているような「反対者の国民」なんかではなく、世界の中で何よりもただ平和と平穏のみを愛し願う自国民なのです。

僕の名はダニーラ・コズロフスキーで、戦争に反対しています。このことを、ただ自分の名において心から述べています。」(主演・監督・製作:ダニーラ・コズロフスキー 2/27 Instagramより)

「2月24日の早朝、成人した息子がキエフから電話をかけてきて、衝撃と落胆のこもった声で話した。「始まったよ...」と言いながら、ミサイルの音を聞かせてくれた時は、信じられなかった。もちろん、こういう事態になるかもしれないということは事前に分かってはいたが、それでもキエフでミサイルが炸裂しているなんて…。

私の生まれ故郷であり、親戚や友人、同僚が住み、両親や祖父母が眠るキエフが、私がこの20年間、家族や友人とともに暮らし、仕事をしてきた国のミサイルに襲われるとは想像もできなかった。私は生まれてからずっとロシア語を話している。(中略)

戦争に言い訳はない。戦争を起こした人々が何を主張しようとも。

私は、ソ連政府がアフガン戦争の絶対的な必要性をどのように説明したかをよく覚えている。そして、それが悲劇的な間違いであったと認めるまでに、10年の歳月と1万5千人のソ連兵、100万人近いアフガニスタン人の犠牲を要したことも記憶している。(中略)

そして、この戦争も悲劇的な間違いである。国民経済が破綻し、わが国が世界で孤立し停滞し、技術格差が拡大し続けるからではない。この間違いに対する恥は決して消えないからだ。それは私たちの子供たち、そして孫たちにまで残り続ける。

私たちは黙っているわけにはいかない。

戦争にNOを。」(製作:アレクサンドル・ロドニャンスキー、2/25Instagramより)

中村恵里香(ライター)

5月6日新宿ピカデリーほか全国ロードショー

公式ホームページ:chernobyl1986-movie.com

Staff:監督:ダニーラ・コズロフスキー/脚本:アレクセイ・カザコフ, エレナ・イワノワ/製作:アレクサンドル・ロドニャンスキー、セルゲイ・メルクモフ、ダニーラ・コズロフスキー、ヴァディム・ヴェレシチャーギン、ラファエル・ミナスベキアン

Cast:ダニーラ・コズロフスキー、オクサナ・アキンシナ、フィリップ・アヴデエフ、ニコライ・コザック、ラフシャナ・クルコワ

2020年/ロシア/ロシア語/136分//原題:ЧЕРНОБЫЛЬ/字幕翻訳:平井かおり/字幕監修:市谷恵子/配給:ツイン

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