「コーダ あいのうた」


耳が聞こえない方の家に行くと、不思議なほど音のない世界に引き込まれていきます。普段感じたことのない外の世界の音だけが気になってきます。これは私が学生時代にボランティアで伺ったある家庭での実感です。音のない世界というのは、とても不思議な感じを受けた覚えがあります。そんな経験をふと思い出した映画「コーダ あいのうた」をご紹介します。

マサチューセッツ州の豊かな自然に恵まれた小さな海の町で、早朝から船に乗り、家業の漁業を手伝っているのは、高校生のルビー・ロッシ(エミリア・ジョーンズ)です。なぜ彼女は、学校に行く前に家業を手伝っているのかというと、父フランク(トロイ・コッツ

Photo: Mark Hill

アー)、母ジャッキー(マーリー・マトリン)、兄レオ(ダニエル・デュラント)の3人は耳が聞こえないため、家族の通訳を務めて

いるからです。ルビーは歌うことが好きで、船の上でも歌っています。

新学期が始まり、密かに憧れるマイルズ(フェルディア・ウオルシューピーロ)と同じ合唱クラブにルビーは入ります。ルビーの歌声を聞き、顧問のV先生(エウヘニオ・デルベス)は彼女の才能を見抜き、秋のコンサートでマイルズとデュエット曲を歌うように言い渡します。さらに、マイルズと共にバークリー音楽大学を目指すことを勧め、そのための特訓を約束してくれます。

ルビーはマイルズを家に招いて練習をしようとしますが、帰宅した両親に邪魔されてしまいます。あけぴろげなルビーの両親の言動に圧倒されたマイルズは、一人の友人に話してしまいます。それが普段からルビーの両親をバカにするグループに伝わり、ルビーはからかわれてしまいます。ルビーはすっかり落ち込んでしまいますが、V先生のところで歌うことで、気持ちを解放させてくれるのでした。

そんな生活が続いている中、政府から漁獲制限を課され、監視員が船に乗り込むことになります。組合で会議が開かれ、漁師のことを考えていない政府側の人間の態度に腹を立てたフランクは、ルビーの通訳で「自分たちで魚を売る」と宣言してしまいます。後に引けなくなったロッシ家は“漁業協同組合”を設立し、活動を始めますが、そのためにルビーはさまざまな交渉ごとに引っ張り回されることになります。

あまりの忙しさにV先生のレッスンへまともにいけなくなり、3度目の遅刻をしたルビーは厳しく叱られてしまいます。

意を決し、家族に音楽大学に行きたいと訴えますが、今進めている事業にルビーは欠かせないと両親から大反対されます。“歌が好き”と訴えるルビーですが、両親はまったく理解しようとしません。

翌日、仕事をさぼってルビーは仲直りを切望していたマイルズとデートに出かけます。その日は、監視員が乗船する日でした。監視員は、耳の聞こえない2人が漁をしていることを知って、無線に対応できる人間が乗船しなければ免許停止とする旨を言い渡されてしまいます。手話通訳は滅多にいないし、雇うお金のないロッシ家の人々は途方に暮れてしまいますが、その状況を見て、受験をあきらめ、ルビーは家に残る決心をします。両親は喜びますが、家の犠牲になることを兄は反対します。

家族の中でさまざまな思いが渦巻く中、合唱部の秋のコンサートが始まります。ロッシ家の3人が客席で見守る中、マイルズとルビーのデュエットが始まります。音の聞こえない両親が周囲を見回すと、観客は夢中になって聞き入り、涙を流す人もいました。

家に帰り、物思いにふけっていたフランクは、ルビーに今日歌った歌を歌ってほしいと頼みます。ルビーの首に手を添え、娘の歌声を感じようとします。

ルビーは大学受験できるのか、そして家族はどのように進むのか、マイルズとの恋はどのようになるのか、ここから観てのお楽しみです。夢に向かって進もうとする娘と支え合ってきた家族の自立が大きなテーマです。

監督のシアン・ヘダーは、耳の聞こえない人間を聞こえる人が演じることの嘘を感じ、「耳の聞こえない人の役があるのに、耳の聞こえない優秀な役者を起用しないというのは考えられなかった」と言っています。この作品のキャスティングにこだわり、「世界はこのようなストーリーが語られるのを長すぎるくらい待っていた。今こそその時であり、言い訳はできない」と語っています。

タイトルの「コーダ」は2つの意味を持っています。「コーダ」とは、“Child of Dear Adults”の略語で、耳の聞こえない親を持つこどもという意味がひとつです。そしてもう一つの意味は、楽曲の終わりを表す音楽記号のことで、次の章が始まる意味をお持ちます。耳の聞こえない親を持ち、音楽に心を奪われた少女の新たな旅立ちを描いた映画をぜひ映画館で見てください。人生に迷った時、新たな一歩への道しるべが見つかるかもしれません。

中村恵里香(ライター)

 

2022年1月21日TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

公式ホームページ:https://gaga.ne.jp/coda/

 

スタッフ

監督・脚本:シアン・ヘダー/プロデューサー:フィリップ・ルスレ、パトリック・ヴァックスベルガー/撮影監督:パウラ・ウイドプロ、音楽プロデューサー:ニコラ・バクスター

キャスト

エミリア・ジョーンズ、フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、マーリー・マトリン

原題:CODA/製作年:2021年/製作国:アメリカ/上映時間:112分/字幕翻訳:古田由紀子/配給:ギャガGAGA★

© 2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

 


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