帆花


中学生の頃、教会の婦人会や青年会が作ってくれたおむつや、自分たちで古新聞を回収して集めたお金を届けがてら重度身障者施設でボランティアをするという経験をしました。毎月伺い、ほんの1時間程度ですが、中学生でもできることをほんの少しお手伝いするというものでした。その施設に初めていった際、一緒に行った男子が「こんな状態で生きていたってしょうがないじゃないか」という無神経な言葉を投げかけたことにすごくショックを受けました。中学の同級生数人の弟や妹に障害者がいたこともあって障害者は生きる価値がないという考え方が理解できませんでした。彼の言葉を聞いて、障害を持って生きるということはどういうことなのか、生きるとはどういうことなのか自分に問いかけています。その問いかけの答えの一端が見られる映画「帆花」に出会いました。

帆花はこの映画の主人公の名前です。西村秀勝さんと理佐さんの間に生まれた子供です。帆花ちゃんは生後すぐに脳死に近い状態と宣告されました。常に人工呼吸器を装着し、24時間見守りが必要な状態です。2人と帆花ちゃんの生活を見ていると、とても大変だと思うことも普通のこととしています。いろいろな場所に出かけていき、絵本を読み聞かせ、お風呂に入れ、吸引をするなど、ありふれた日常の中の積み重ねのように見えます。

脳死に近い状態で生まれた帆花ちゃんは、日々成長しています。動かなかった手が動くようになり、コンピューターを使った文字入力遊びに励んだり、声の出し方も変わってきます。毎晩絵本を読み聞かせをしたり、細かな声かけによって帆花ちゃんが変わってきた様子が映像を通して手に取るようにわかります。

この映画を通して、父親の秀勝さんは、「自分としては、帆花は僕ら夫婦だけではなく、たくさんの人に支えられて生きていると思っています。逆に僕にしてみれば、帆花が生まれてこなかったら、こんなにも多くの優しい人たちに出会えていなかったかもしれない。帆花がいなかったら、自分なんてちっぽけな存在だな、と最近ではそう思わされることが多いですね」と語っています。

また、母親の理佐さんは「いつも必死だったあの頃。その余裕のなさ、自信のなさ、思い出すとキラキラと眩しく胸が痛い。でもきっ と家族の『はじまり』はそういうもので、あの頃の一つひとつの出来事、出会いが今の私たち家族の土台となっている。そうしてそれはきっとありふれた『家族のはじまりの物語』。『帆花』と出会ってくれた皆さんの中にも灯る、いのちの青い炎が呼び覚まされ、大切な家族の物語が思い起こされますように。」と語っています。

そして、医学博士の稲葉俊郎氏は、「帆花さんの母親、理佐さんの発言の中に、私はよく夢を見ます、とあった。帆花さんの家族は、一般的な家族よりももっと深い意識状態の中で生活を送り、コミュニケーションを図っているのではないだろうか。そこは夢を生み出す母体のような深い意識の場所で、名前やカテゴリーで物事が区分けされず差別されず、いのちが混然一体となっている場所だ。

眠りの姿と祈りの姿はよく似ている。帆花さんの家族の生活を見ていると、祈りと命が中心にある。日々訪れるこの暮らしを、新しくかけがいのない日々として聖なるものへと深めながら、わたしたちは暮らせているだろうか。人生は、そうした日々の積み重ねの結果でしかないのだから。」と書かれています。

帆花ちゃんの望む生き方を模索する母親・理佐さんの言葉はすごく重いものがあります。祈りにも似た言葉です。帆花ちゃんの成長と親たちの葛藤の物語をぜひ映画館に足を運んで観てください。

(中村恵里香、ライター)

 

2022年1月2日(日)ポレポレ東中野ほか全国順次公開

公式ホームページ:http://honoka-film.com/

 

スタッフ

監督:國友勇吾/撮影:田崎絵美プロデューサー:島田隆一/編集:秦 岳志/整音:川上拓也音楽:haruka nakamura

出演

西村帆花、西村理佐、西村秀勝

 

 


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

thirteen + 8 =