障害者福祉に携わって


兼俊 亮(カトリック下井草教会)

私は学校を出てからほぼ40年間、印刷関係の営業マン一筋の社会人生活を送って来ました。学生時代はボランティアとして障害者の福祉施設やハンセン病療養所の慰問などをほんの少しだけお手伝いをさせて頂いた事がありましたが、それ以降は、ほとんど福祉とは無関係な生活でした。そんな私の人生を一変させたのは東日本大震災でした。

震災より20年近く前に父の定年退職を機に、父と母は福島県楢葉町に移り住んでいました。海の近くで、魚釣りと畑仕事で余生を送る計画で、父は町役場の福祉のお手伝い、母は地区のお世話役などを引き受け、この地を終の棲家にしようとしていました。

2011年3月11日に東日本一帯を激しく揺るがす大地震と津波が、父母の住む楢葉の隣町にある福島第一原発を襲いました。いつ収拾するとも知れない原発事故のために、両親は再び東京で暮らす事になりました。そのころ私は両親の東京での暮らしのサポートをしながら、東日本大震災の被災地へのボランティアに関わっていましたが、同時に近い将来始まるであろう両親の介護と、私自身の定年退職後の仕事を考えていました。

そんな時、別のグループでボランティア活動をしていた知人と被災地の情報交換をするついでに、両親の新しい住まいを探していることと、両親のすぐ近くで両親の介護をしながらできる、私自身の仕事について考えていると伝えたところ、練馬区大泉学園町で、新しい考え方の共同住宅を作る計画があるので立ち上げに関わらないかとのお誘いをもらいました。その共同住宅は、少しだけサポートを必要としている人が誰でも入居できて、しかも入居者同士と地域が緩やかに関わりを持つ、新しい考え方のシェアハウス「ウイズタイムハウス」になりました。そして両親は第一号の入居者になりました。

最初、私にこのシェアハウスの管理人をやらないかという誘いもありましたが、それよりこの建物の一階のスペースを使って、独立した事業を家内と一緒に立ち上げたいと思っていました。ちょうどそのころ家内が、障がいのあるお子さんのための、放課後デイの施設で働いていましたので、その子達が特別支援学校卒業後に通う事になる、就労継続支援B型の事業を目指そうということになりました。とは言っても私はズブの素人でしたので、就労継続支援とは何をする仕事なのか、しかもB型って何?という調子でした。

そんな私でしたが少しは勉強して、「障害のある人も無い人も、皆が自分らしく生きられる世の中を実現する。」という法人理念を掲げ、2017年10月に一般社団法人アライブを立ち上げ、2018年6月に就労継続支援B型事業所「ウイズタイム」の東京都指定を受け開業しました。開業は利用者ゼロ人からのスタートでしたから、一か月100万円以上の赤字が一年以上続き、その翌年も赤字率は緩やかになりましたが、相変わらず赤字が続いていました。その時の私の気持ちとしては、この赤字はいったいいつまで続くのか、自分はどこまでこの仕事を続けられるのかと思っていました。でも不思議な事にあまり焦ってはいませんでした。それよりむしろ心のどこかに、神様は喜んでくださっている、という根拠の無い安心感さえ感じていました。

そんな時、家内と一緒に活動して来た、マリッジ・エン・カウンター(ME)の国際会議の準備のために会場となる鹿児島に行った時、一緒にMEの活動をしている当時、鹿児島司教だった郡山健次郎司教様と一緒に食事をする機会があり、仕事の話をした時、「それはあなたにとってのミッションだ。」と言って頂き、聖書の一節を贈られました。

列王記十七章十節、明日の食べ物にも事欠く貧しいやもめに、エリヤが水を所望した後パンも一切れ持ってくるように言う場面で、やもめは自分と息子の最後のパンを焼くだけの一握りの小麦粉とわずかな油しか無いと伝えますが、それでもエリヤはまず私のためのパンを焼き、次にこの母と息子のパンを焼きなさいと言います。やもめがその通りにすると小麦粉と油は尽きることは無かったという箇所です。

その後の私は、様々な障害に苦労しながら、懸命に生きている利用者さん達ととともに、一緒に困りながら、毎日笑ったり泣いたりしながら元気に働いています。とてもやり甲斐のある仕事だと思っています。両親が同じ建物の2階に住んでいるので、毎日顔を合わせながら、徐々に体が不自由になっていく両親にも、寄り添うことができていると思います。その後も経営は、決して楽にはなりませんが小麦粉と油はいまだに尽きていないようです。それは、今でも神様が共に居てくださっているからだと、私は勝手に信じています。

 


障害者福祉に携わって” への1件のフィードバック

  1. 何事も一生懸命していた兼俊さん。 
    人生の岐路に立った時、神さまの手は兼俊さんを教会活動から福祉へと導きました。
    神さまの導きに委ねられたものであれば、どんなに困難があったとしても
    気が付かないところから助け人が現れるでしょう。
    新しいチャレンジに幸あれ。。。

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