教育新時代:これからの子どもたちはなにを学ぶか(6)


やまじ もとひろ

「ダブルディプロマ」ってなに?〈その2〉

前回につづき、ダブルディプロマ校の話をつづけます。

「ディプロマ(diploma)」という英語は、卒業資格を意味します。それがダブルなのですから、ダブルディプロマとは卒業資格が2つ手に入るという意味で、それが可能な学校が、ダブルディプロマ校です。

2つの卒業資格とは、日本の高校卒業資格と、他国の高校にあたる学校の卒業資格です。  このダブルディプロマを高校でいち早く導入したのが文化学園大学杉並高校(東京)です。同校は2015年度、カナダのブリティッシュコロンビア州(BC州)教育法によって認定されたカリキュラムを提供するダブルディプロマ・コース(DDコース)を設けました。

このコースの生徒は、同時に校内に併設された「Bunka Suginami Canadian International School(BCS)」の生徒として、BC州教育省から派遣されたカナダ人教員による授業を受けます。

もちろん各教科とも英語による授業で、高1の7月には、BC州の学校に5週間の短期留学にでかけます。今年はコロナ禍のため、短期留学は延期し、来夏、高1、高2生の短期留学が同時に実施されることになっています。

このコースの卒業生は日本とカナダの両方の高校の卒業資格を得ることができ、英語圏の大学等に進学を希望する場合、一定の成績基準を満たしていれば、一般的な留学の際に必要な検定試験を受けなくても出願が可能となります。

また、国内の大学に向けても帰国生並みの優遇を受けられますので、1、2期生とも、この2年、有数の海外大学だけでなく、国内の難関大学にも巣立っていきました。

 

海外留学だけではなかったグローバル教育

この文化学園大杉並の「サクセスストーリー」は、他校から大きな注目を集めました。

入口(入学時)の学校のレベル(おもに偏差値)から、出口(卒業時)での進学大学の難度(おもに偏差値)に大きなプラスの差があれば、受験生を持つ親にとって、それは「サクセス」なのです。

2019年度には大阪の大阪学芸高、2020年度からは東京の麹町学園女子高、神田女学園高、国本女子高が相次いでダブルディプロマ・コース開設を発表しました。

これまでグローバル教育と言えば英語教育の充実と海外での語学研修、留学の制度があることを標榜する例がほとんどでした。いま私立中学・高校には、期間が短期、中期の留学をはじめとして多様な留学プログラムを設けてアピールする学校が多くあります。

そのような留学制度を持つ学校のなかで「サクセス」を見せてきたのが「1年間の留学」をうたう学校です。

長期の留学、しかも英語圏の学校にクラスで1人だけが日本人という環境を仕掛け、ホームステイ先の家庭でも1人だけが日本人という、「英語漬け」の日常が否応なく用意されたのです。

もちろん生徒には、それなりの覚悟と努力が求められたのは事実でしたが、乗り越えて帰国した生徒は見違えるような成長をとげており、大学進学でも難関といわれるところに、国内の受験生を尻目に滑り込んでいきました。このあたりの詳しい紙数は次回にまわしますが、ダブルディプロマ校の代表、文化学園大杉並高は、そのような1年間もの留学を経ず、5週間の留学だけで日本に居ながらにして、長期留学高に匹敵する進学結果を出したのです。

 

ダブルディプロマ校にも2つのタイプ

ただ、ダブルディプロマ校だからといって、すべての学校が「日本に居ながら」にして海外の学校の卒業資格を得られるものとは限りません。

同じダブルディプロマ校でも、麹町学園女子高と神田女学園高のそれはアイルランドやニュージーランドの高校とのダブルで、こちらは向こうの高校に一定期間(2年間くらいの長期)の留学をするようにスケジューリングされています。

2年間、日本を離れても在籍校を休学にはなりません。また向こうに行きっぱなしでもなく短期間の一時帰国も可能なスタイルですが、英語での会話力の醸成は圧倒的に有利でしょう。

この2校の大学進学実績は未だ出ていませんので、出口は推測でしかありませんが、この制度を乗り越えた生徒は、国内よりもむしろ、海外大学志向が強くなるのではないかと思われます。さらに圧倒的な英語力を若いうちに身につけることで、その先の就職までを見据えたダブルディプロマだとも見えます。

なお、大阪学芸高は文化学園杉並高と同じカナダBC州、国本女子高はカナダ、アルバータ州の学校が校内に設置され、日本を拠点にダブルディプロマ獲得をめざす文化学園杉並高型です。

このようにダブルディプロマ校にも2つのスタイルがあります。かたや、拠点が日本にあり、日本の学校に「居ながら」が売りのダブルディプロマ校、もう1つは2年近く海外の学校に拠点を置き、圧倒的な英語力をめさすダブルディプロマ校です。海外大学進学の資格は後者の方が、幅広い国をカバーできます。こちらはダブルの卒業資格といっても第一義的には海外の学校を卒業した形になることがその理由です。国内の大学に対しても海外の学校の卒業資格が認められますから帰国生扱いとなります。

前述のとおり、「1年間、英語漬けの毎日を送る長期の留学校」が、帰国した生徒の頑張りで大学進学実績を押しあげたことから、国内のグローバル教育は変化を見せ始めました。

ダブルディプロマ校の出現で、一気に多様化したグローバル教育校ですが、一長一短があり、どれがいいかを結論づけることはできません。しかし、大学の教育改革、とくに英語教育への見直しは、それを先取りする形で、高校の学び、とくに英語教育の姿を変貌させていくだろうことには気づいてほしいと思います。

 

やまじ もとひろ
教育関連書籍、進学情報誌などを発刊する出版社代表。
中学受験、高校受験の情報にくわしい。

 


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

one × 5 =