佐保田京香(上智大学大学院博士前期課程)
大学での全面オンライン授業が5月25日に開始されてから、もうすぐ2ヶ月が経とうとしている。4月の緊急事態宣言から、私たちを取り巻く環境は180度変わった。たった4ヶ月前には、自宅で授業を受けるなんてことは想像もできなかったのに、今では都内のほぼすべての大学がオンラインで授業を行っているという事態に、世界が変化していることを実感させられるのである。本稿では、オンライン授業受講を通して、実際の対面授業と何が一番変化し、それが私たちにどのような影響を与え、メリットとデメリットを生み出しているのかを考えてみようと思う。
各大学で春学期に施行されているオンライン授業には、受講人数や受講者の状況、授業の特性に合わせたいくつかの授業形態があり、大きく分けて以下の3つに分類できるのではないかと思う。
・Zoomを利用したリアルタイム進行型の授業
・音声付きパワーポイント教材などを利用したオンデマンド型授業
・教学支援サイトなどを利用した非リアルタイムチャット型授業
ここに挙げたのはあくまで一例であり、上記の中でいくつかを組み合わせて行っている授業もあると考えられる。Zoomでのリアルタイム型授業は、教室での授業に一番近い形で行われているので、意見交換やプレゼンテーションが活発に行われている。オンデマンド授業は、基本的にアップロードされたものを学生がダウンロードして授業を受ける形であるため、基本的に教員と学生一対一の授業という傾向が強い。そして、チャット授業は、授業受講は個人作業であるものの、チャットを利用して教員や他の受講生と意見を交わすことが可能となっている。
それでは、オンライン授業のメリットについて考える。
私が考えるオンライン授業の最大のメリットは、時間を有効に活用できるようになった点である。オンライン授業の導入によって最も変化したのは、私たちの生活のスタイルであり、基本的に自宅で一日を過ごすことになった。大学に通学する時間が無くなり、朝の時間が有効に活用できるようになったのである。これまで当たり前であった朝は、眠気をこらえて起床し、急いで支度をして家を出るという毎日で、それに特に何の疑問も持たなかった。しかし、いつもより2時間以上は自由な時間が取れるようになったため、掃除や洗濯などの家事を朝に済ませられる。こうして、普段より時間を有効活用できている感覚を持つことができている。また、同時に、帰宅のための時間も無くなり、授業を受けた後すぐに復習を始めることができるようになったことも、良い影響を与えているであろう。
次に考えるメリットは、外出によって生じるストレスを無くした状態で勉強に取り組める点である。私の場合は、朝の通学時間帯において満員電車に揺られることでストレスを感じることが非常に多く、それを経験しなくて良いのは大変ありがたいことである。満員電車に乗ることによって、どうしても人に押されたり、自分も誰かの足を踏んでしまって申し訳なく思ったりということがあった。また、人間関係のトラブルに遭遇することで、朝から暗い気持ちになることもある。しかし、電車に乗る必要性が無くなったので、精神的・身体的ストレスを覚えることが無くなった。いずれ、対面の授業が再開される日が来ても、あの満員電車にまた入っていかなくてはならないのかと思うと、そこまでして通学する必要があるのかと考えてしまうのである。
このようにメリットを挙げてみると、オンライン授業によって、勉強そのものというよりも、勉強に取り組む環境や時間に対して恩恵を受けていると感じられた。その他にメリットを挙げるとすれば、授業中の私語や雑音が聞こえないので集中できる点、教材が自分の画面で視聴できるので見やすいという点が指摘できるのではないかと思う。
ここまでメリットを述べてきたが、オンライン授業は万能というわけではなく、当然デメリットもあるということを主張しておきたい。
最大のデメリットは、大学での友人たちとの学びや他愛もない会話の時間がほとんど無くなってしまった点であると考えられる。友人との食事などの時間において、授業について感想を言い合ったり、空き時間に一緒に分からない点を教え合ったりという時間を取ることが難しくなったことが、オンライン授業における最大のデメリットであると思っている。オンライン授業で気付かされているのは、知識を得ること自体は一人でもできるし、むしろ集中できることもあるが、友人たちと学んでいるという仲間意識や連帯感といったものが薄れていく傾向に陥りやすいということである。もちろん、パソコンの接続不良による授業への支障などのデメリットも重要な問題であるが、オンライン授業における本質的な問題はそこではなく、もっと内面的問題なのではないかと思われる。
現在では、このような問題に対して、学生の感じる孤独感を少しでも軽減しようとさまざまな取り組みがなされている。上智大学カトリック・イエズス会センターでは、毎週土曜日に「オンライン・ミニストリー」を行い、意識の究明や分かち合いの時間を提供している。私たちが困難な時にこそ分かち合い、ともに生きようとする取り組みが、イエス・キリストの名によって集められて深い交わりになっていくことを実感している。
緊急事態宣言の間、私たちに与えられた静かな時間の中で、私たちは日頃の忙しさを言い訳に、自分本位な生き方をしていることに気付かされたのではないか。このような気付きは、日常的に経験している神との離別から和解を促すものであったとも考えられる。神へ立ち帰るということを通して、私たちは自分が何をすべきかをイエス・キリストの姿から学んでいるのである。大学に通うことが制限されている現在でも、私たちができることは何かと考え、オンライン授業によって損なわれている交わりの時間を新たな形で深めていくために自分ができることを少しずつ取り組んでいくことが必要であると考える。私自身も、オンライン授業での学びを通して、自分が貢献できることを考えていきたい。