子供の頃、夏休みに家族で旅行というと、心が浮き立ったものです。それは万国共通の子供の思い出はないでしょうか。特に都会に育った子供は、遠く離れた避暑地に行くなんて楽しみ以外の何ものでもないような気がします。そんな子供の時の気持ちを喚起してくれるような映画がまもなく公開されます。
オランダの北部にある小さなしま、テルスヘリング島へサマーバカンスのために家族とともにやってきたサム(ソンニ・ファンウッテレン)は、11歳。思春期に入り始めたサムは、なぜか「死」や「孤独」について思いを巡らせている。その時、「地球最後の恐竜は死ぬ時、最後の1頭だと知っていたのかな」という疑問が頭をよぎります。
テルスヘリング島に着くと、サムは、父(チェッポ・ヘッリツマ)と3歳年上の兄ヨーレ(ユーリアン・アレンセン)と海辺の砂浜で遊んでいましたが、兄はサムの掘った穴に落ち、骨折してしまいます。せっかくのバカンスなのに母(スサン・ボーハールド)は、偏頭痛がひどく、コテージのソファに横になっています。
そこでサムは一人で島の探検を始めます。そこへ一人でサルサの練習をする少女テス(ヨセフィーン・アレンセン)と出会います。出会うと同時に踊りの練習に誘い、自分の世界に引きずり込もうとします。笑ったかと思うと、急に黙り込んだり、起こったり、くるくると変わっていく不思議な魅力にあふれたテスにこれまでに自分の周りにいた女の子との違いに魅了されていきます。
テスは看護婦の母と2人暮らしです。パパはすでに亡くなっていて顔も知らないといいます。その話を聞き、サムは「死ぬってどういうことだろう」「僕は家族で一番年下だから最後にひとり残される。孤独に慣れないと」と思い、孤独になれる訓練をすることとし、ひとり人気のない砂浜で毎日数時間過ごすことを決めます。
ところがテスは、そんなサムの計画など知るよしもなく、彼の人生にドンどんっ入り込んできます。そして、テスの死んだと思っていたパパは、生きている事実をFacebookで知り、密かに招待したというのです。ママに知られれば、ママを傷つけることになるので、こっそり遂行し、もしすてきなパパだったら娘のいることを告白するつもりだというのです。その秘密の行動に、サムを巻き込んでいきます。
さて、ここからは観てのお楽しみです。テスはママには知られずに、パパに娘だと打ち明けることができるのか、サムの孤独への訓練は? そして2人の運命は?
子どもは、大人が思いもよらないことをしでかすものです。そして、決して幼いからといって無分別ではありません。さまざまなことを知っているように思われている大人よりも深くものを考えることもあります。サムとテスの2人の大いなる冒険を楽しんでみてはいかがでしょうか。
3月20日(金)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
公式ホームページ:http://kyoryu.ayapro.ne.jp/
監督:ステフェン・ワウテルロウト/脚本:ラウラ・ファンダイク/原作:アンナ・ウォルツ「ぼくとテスの秘密の七日間」(野坂悦子訳、フレーベル館)
出演:ソンニ・ファンウッテレン、ヨセフィーン・アレンセンほか
2019年/オランダ/オランダ語・ドイツ語/カラー/84分/
英題:My Extraordinary Summer with Tess/©2019 BIND & Willink B.V. / Ostlicht Filmproduktion GmbH
配給:彩プロ/宣伝:テレザ、ポイント・セット/後援:オランダ王国大使館