「コンプリシティー/優しい共犯」


出遭いがあれば、別れが来る。日常の生活が弛緩(しかん)したときに、他者の介在によって「当たり前」の真意が問われるときがある。その他者が病であったり、事故であったり、死であったりする。そしてまた、他者が異国からの使者である場合には、そこに文化を融合した命への慮(おもんぱか)りが生まれることがある。出遭いと別れが次代を繋ぐことの意義を見出すヒントを与えてくれる映画が現れた。

技能実習生として中国から日本に来た青年チェン・リャン(ルー・ユーライ)は、劣悪な職場環境から逃げ出してしまう。不法滞在者になったチェン・リャンが他人になりすまして探し出した働き口が、蕎麦屋だった。その蕎麦屋の主人・弘は、実の息子との間にすき間が出来ている。チェン・リャンは、中国で母親と祖母と暮らしていた。蕎麦屋で弘に蕎麦作りを教わりながら、弘の背中に父親の姿を重ねていた。

言葉数が少ない、どことなく不器用な蕎麦職人を、藤竜也が好演している。藤竜也が醸し出す男の哀愁が、弘の存在を確かなものにしたと言えよう。

弘とチェン・リャンが競馬場に行くシーンを見落としてはならない。近浦啓監督がこの映画でなにを言わんとしているかが描かれていると思えるからだ。弘が縦縞のジャケットを着て、やんちゃなおじさんに変貌している。自由人・弘を物語るシーンである。

二人は、実の親子のような日々を過した。しかし、いよいよチェン・リャンに警察の手が迫る。店にやってきた警察を相手に、弘が出た行動は、まさに「自由人・弘」だからできたものだったと思えるのである。

フランシスコ教皇が来日したときのテーマ「すべてのいのちを守るため」を振り返り、東京ドームのミサで話された次の言葉を思い出している。

「完全でもなく、純粋でも洗練されていなくても、愛をかけるに値しないと思ったとしても、まるごとすべてを受け入れるのです。障害をもつ弱い人は、愛するに値しないのですか。よそから来た人、間違いを犯した人、病気の人、牢にいる人は、愛するに値しないのですか。イエスは、思い皮膚病の人、目の見えない人、からだの不自由な人を抱きしめました。ファリサイ派の人や罪人をその腕で包んでくださいました。十字架にかけられた盗人すらも腕に抱き、ご自分を十字刑に処した人々さえもゆるされたのです」

映画「コンプリシティー/優しい共犯」を、この言葉に示唆されながら観てはいかがだろうか、と思っている。

(鵜飼清/評論家)

2020年1月17日 (金)より新宿武蔵野館にてロードショー
公式ホームページ:https://complicity.movie/

 

スタッフ
監督・脚本・編集:近浦啓
キャスト
ルー・ユーライ、藤竜也、赤坂沙世、松本紀保、バオ・リンユ、シェ・リ、 ヨン・ジョン、塚原大助、浜谷康幸、石田佳央、堺小春、 占部房子

主題歌:テレサ・テン「我只在乎ニィ(時の流れに身をまかせ)」(ユニバーサル ミュージック/USMジャパン)
製作:クレイテプス Mystigri Pictures/制作プロダクション:クレイテプス 配給:クロックワークス
2018/カラー/日本=中国/116分
©2018 CREATPS / Mystigri Pictures


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

seven − two =