「だれもが愛しいチャンピオン」


日本中を熱狂させたラグビーワールドカップでは、日本が8強入りしたことだけでなく、「one for all all for one」(「一人はみんなの為に、みんなは勝利(目標)の為に」)の精神が強く印象に残りました。これはどんなスポーツにも当てはまる言葉ですし、また社会生活の中でも役に立つ言葉ではないかと思っています。また、来年は東京オリンピックの年でもありますが、これまで日本ではテレビ中継もされず、あまり注目を浴びていなかったパラリンピックにも徐々にではありますが、注目されています。今回ご紹介する映画は、障害者スポーツ、知的障害者たちが活躍するバスケットボールのお話『誰もが愛しいチャンピオン』です。

スペインのプロ・バスケットボール1部リーグのエストゥディアンデスでサブコーチをしているマルコ・モンテス(ハビエル・グディエレス)は、優秀なコーチですが、短期で横柄な性格が玉にきずといった人物です。ある日、試合中に頭に血が上り、ヘッドコーチをののしり、殴ってしまいます。その上、やけ酒をあおり、飲酒運転をして事故と起こしてしまいます。ヘッドコーチを殴ったことと事故を起こしたことで、チームから解雇されてしまいます。

事故を起こしたことで、判事から刑務所に入るか90日間の社会奉仕活動をするかといわれるのですが、どちらも理不尽だと感じ、返事をしません。でも彼に選ぶ権利はありません。

一方、プライベートでも元女優の妻ソニア(アテネア・マタ)と別居中で、いつまでも子ども扱いする母親アンパロ(ルイサ・ガバサ)のもとに身を寄せています。

指定された公共体育館に出向いたマルコは、年老いた責任者フリオ(フアン・マルガージョ)と面接します。彼が担当するのは、知的障害者のバスケットボール・チーム、アミーゴスです。

さて、実際にコーチするメンバーと対面すると呆然とせずに入らない状態でした。てんかんの発作で、突然フリーズするセルヒオ(セルヒオ・オルモス)、隙があるとハグを求めてくるフアンマ(ホセ・デ・ルナ)、背面に向かってロングスローすることが得意なベニート(アルベルト・ニエト)など、9名のメンバーは超個性派ぞろいです。会話も噛み合ず、マイペースな彼らを見て、「チームを作るなんて不可能だ。彼らは正常じゃない」というマルコに対し、フリオは、「正常とはなにか。君は正常か?」と問いかけます。

基本的なパスやシュートもできないアミーゴスの練習は惨憺たるものです。ところが、チームの全国大会出場が決まります。ホーム開催の初戦に臨もうとするのですが、ユニフォームの色さえ統一できない9人は、戦う前からバラバラです。

そんなとき、フリオから彼らが複雑な事情を抱えながら、仕事をこなし、自立した生活を送っていることを知らされ、辛抱強くコーチをしていきます。

そんな状況の中で、幼少期のトラウマによってシャワーを浴びることができないフアンマの水恐怖症を克服させたマルコは、初めてONE TEAMの喜びを体験します。

初めての遠征試合に繰り出そうとするアミーゴスに10人目の新メンバーが加わります。唯一の女子選手ゴンジャンテス(グロリア・ラモス)は、持ち味の荒くれファイトで、チームはエネルギーを注入されていきます。

帰りのバスの中でトラブルを起こし、遠征が危ぶまれますが、ソニアが協力を買って出て、キャンピングカーの運転手を務めてくれます。こうして軌道に乗り、活気づいたアミーゴスは、勝利を重ね、リーグ優勝争いに食い込んでいきます。そうしてあとは決勝というとき、最後の試合はカナリア諸島だということで、旅費の問題が浮上します。

さて、この後はぜひ映画館で見てください。決勝戦に出ることはできるのか、マルコとソニアの関係は……。涙あり、笑いありの感動的な物語にあなたも胸を打たれるはずです。

この手の映画では、障害者の役は、ほとんど俳優さん演ずるのが常ですが、この映画は違います。障害者は、実在の障害者が演じています。驚いたことにオーディションに3か月かけてキャスティングしたということです。物語も架空のものではなく、2000年のシドニーパラリンピックでスペインが起こした不正事件と、一つの新聞記事「人生の優勝カップ」をもとに描かれた作品です。知的障害者の純粋さと情熱には、すばらしいものがあります。偽物ではない演技をぜひ見てください。

(中村恵里香:ライター)

 

12月27日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開!
公式ホームページ:http://synca.jp/champions/

監督・共同脚本・編集:ハビエル・フェセル/脚本:ダビド・マルケス
出演:ハビエル・グティエレス、アテネア・マタ、ルイサ・ガバサ、フアン・マルガージョ、セルヒオ・オルモス、ホセ・デ・ルナ、アルベルト・ニエトほか
配給:シンカ 宣伝:太秦
後援:日本障がい者バスケットボール連盟/(一社)日本FIDバスケットボール連盟/一般社団法人 日本自閉症協会/公益財団法人 日本ダウン症協会/スペイン大使館/インスティトゥト・セルバンテス東京/スペイン政府観光局
2018年/スペイン/スペイン語/118分/カラー/シネスコ/英題:CHAMPIONS/日本語字幕:金関いな
© Rey de Babia AIE, Peliculas Pendelton SA, Morena Films SL, Telefónica Audiovisual Digital SLU, RTVE


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

1 × one =