女性指揮者と聞いて、どんなイメージをもちますか。最近では西本智実さんなど、日本人でも指揮者として活躍している方が多くみられるようになりました。でも、女性指揮者で主任指揮者になっている人がいないという現実をご存じの方がどのくらいいるでしょうか。女性は指揮者になれないといわれた時代に、自らの意志で指揮者への道を切り拓いていったアントニア・ブリコの生涯を描いた映画『レディ・マエストロ』をご紹介します。
1926年、ニューヨークでウィリー(クリスタン・デ・ブラーン)は、コンサートホールの案内係として働いています。ある日、オランダの指揮者メンゲルベルク(ハイス・ショールテン・ヴァン・アシャット)の一挙手一投足をまじかで観るべく客席の通路、最前列に椅子を置いて座り、スコアを膝に置き、座るという行動に出ます。幕間にホールの経営者で富豪の子息フランク(ベンジャミン・ウェインライト)に放り出され、仕事もクビになります。
幼い頃にオランダから両親と移民してきたウィリーは、指揮者になる夢を叶えたいのですが、どうしたらなれるか分かりません。そこでまず、毎年楽しみにしている無料コンサートへ行き、指揮者ゴールドスミス(ゾーマス・F・サージェント)が指導する音楽学校への入学希望を口にします。翌日、彼の家でピアノのテストを受けます。そこに同席していたフランクとバッハの研究家シュヴァイツアー博士について大論争を起こしてしまいます。
なんとか受験に向けてレッスンを受けられることになり、授業料を稼ぐために仕事を探しますが、うまくいきません。偶然すれ違ったロビン(スコット・ターナー・スコフィールド)という男からナイトクラブのピアノ弾きの仕事をもらいます。週3回レッスンに励み、夜はクラブで演奏しますが、母親には案内係の仕事をクビになったことを話すことができません。
ある日、ゴールドスミスから「一流の音楽家が勢揃いする」パーティへの旅行に誘われ、出かけます。すると、そこはフランクの実家でした。その席には、メンゲルベルクがいて、ウィリーのことを憶えていて、なぜ楽譜を読んでいたのか聞かれます。彼女は堂々と「指揮者志望」だと応えますが、同席していた人たちから失笑が広がります。失意の仲でフランクとダンスを踊るうち、二人は恋に落ちていることに気がつかされます。
動揺して帰宅したウィリーを待っていたのは、ウィリーの嘘とクローゼットに隠していたお金を見つけ怒る母でした。言い争いがエスカレートして、「私は母ではない。これまで育てた分としてこのお金はもらう」とまでいわれてしまいます。父親から2歳のときにシングルマザーだった母親から養子に出された事実を知らされます。
音楽学校の試験には合格しますが、母親から追い出されたウィリーは、ロビンのアパートに転がり込みます。待望の音楽学校への入学でしたが、ゴールドスミスとトラブルを起こし、理不尽な思いで退学せざるを得なくなってしまいます。心機一転本名のアントニアに戻って新しい人生を歩みだそうとしますが、問い合わせをしていたオランダ大使館から実の母は既に他界していることが知らされます。悲しみの中、どこにいるのか分からないアントニアを探していたフランクと再会し、愛を確かめ合うのですが、アントニアはオランダへと旅立っていきます。
母の墓参りを終え、母の妹という人と出会い、彼女は衝撃の事実を知ります。そして、メンゲルベルクに弟子入りを頼みますが、断られてしまいます。メンゲルベルクの紹介状を手にベルリンに渡ったアントニアは、カール・ムックという指揮者に会いにいきます。一度は断られますが、「私は音楽のために人生を捨てます」と宣言することで、指導を引き受けてもらえることになり、音楽アカデミーで女性初の指揮下入学者となります。
さて、ここからは観てのお楽しみです。母の妹に会って知ったこととは何だったのか、フランクとの恋の行方は、彼女は女性指揮者となれるのか、そしてこの女性の行く末はどうなるのか。
男性ばかりの世界の中で、女性がひとつの道を切り拓くということの困難さと、信念の物語です。実際にいたアントニア・ブルコという女性の生涯が美しいオーケストラの音色とともに描かれています。ぜひ映画館で観てください。
9月20日よりBunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
公式ホームページ:http://ladymaestro.com/
監督・脚本:マリア・ペーテルス/音楽監督:ステフ・コリニョンほか
キャスト
クリスタン・デ・ブラーン、ベンジャミン・ウェインライト、スコット・ターナー・スコフィールド、ゾーマス・F・サージェントほか
2018年/オランダ映画/英語・オランダ語/139分/英題:The Condictoe/配給:アルバトロス・フィルム
©Shooting Star Filmcompany - 2018