ディリリとパリの時間旅行


京都アニメーションの事件後、アニメーションがある意味スポットを浴びています。特に日本のアニメーションの動きや色のきれいさは群を抜いていると感じていますが、世界各国でもさまざまなアニメーション作品が発表されているにもかかわらず、日本ではあまり多くの作品が公開されていない実情もあります。そんな中、フランスの最も美しい時代といわれているベル・エポックのパリを舞台にしたアニメーション映画『ディリリとパリの時間旅行』が間もなく公開されます。

19世紀末から20世紀初頭の自由で華やかなパリは、世界中から多くの才能を持った人が集まり、もっとも華やかな時代といわれています。そのパリにニューカレドニアからひとりの少女が密かに船に乗り、伯爵夫人の助けによってやってきます。

パリの博覧会会場で、原住民の生活を表現する場で働いていたディリリは、配達人のオレルと出会います。伯爵邸と博覧会場しか知らないディリリはオレルにパリ案内を頼みます。翌日からオレルの三輪自転車に乗ってパリを回ります。

その頃、パリでは少女誘拐事件が次々に起きていました。オレルに紹介されたキュリー夫人やピカソ、マティス、パスツールやルノワールなどパリに集うさまざまな人々によって、少女の誘拐は、男性支配団によって行われていることが分かってきます。オペラ座では希代のオペラ歌手エマ・カルヴェに紹介され、そこから人脈はどんどん広がっていきます。

ある日、男性支配団によるロワイヤル通りにある宝石店の襲撃計画を知った2人は、強盗を阻止します。その顛末が新聞に顔写真入りで報じられたことで、一躍有名になったディリリは、男性支配団の標的となり、エマの運転手ルブフの裏切りで誘拐されてしまいます。

ここからは観てのお楽しみです。男性支配団とはどんな存在なのか、無事ディリリは逃げ出すことができるのか、そして少女たちはなぜ誘拐されたのか、その運命は……。

この映画の面白さは、朝ドラ「なつぞら」の坂場氏の言葉が象徴しているように思えます。「ありえないことも本当のように描く」です。これはアニメーションだからできることですが、なかなか難しいことだと思います。この作品の中では、本当にこんなことあるかよという場面もリアリティをもって描かれています。決して日本のアニメーションのように動きが緻密でもありませんし、技巧的に優れてもいません。でも、フランス発のアニメーションだからできることがふんだんに含まれています。そのひとつが背景です。背景を手書きではなく、監督が何年もかけてとりためた美しい写真を加工することで出来上がっています。写真の加工と人物の動きがすごくマッチしています。

もうひとつ、この映画を皆さんにご紹介したいと思ったのは、ディリリの存在にあります。ディリリは出会った人、一人ひとりの名前と職業をていねいに書き留めていきます。そして出会った人に影響されて生きるために必要な夢をたくさんためていきます。そんな中で、ニューカレドニアの地元民を母に、フランス人を父にもつディリリは、ニューカレドニアでは肌の色が薄いということで、フランス人といわれ、フランスに来ると異邦人として扱われる自分に苦悩しますが、決して暗くはなりません。すごく前向きなのです。

そんなディリリの生き方に前を向いて生きていくことの大切さを教えられたような気がします。ぜひ、映画館に足を運んで観てください。きっと清々しい気持ちになって家路につくことができるでしょう。

(中村恵里香、ライター)

8月24日よりYEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
公式ホームページ:https://child-film.com/dilili/

監督:ミッシェル・オスロ/音楽:ガブリエル・ヤレド
声の出演:プリュネル・シャルル=アンブロンエンゾ・ラツィトナタリー・デセイ
2018年/フランス・ベルギー・ドイツ/フランス語/94分
配給:チャイルド・フィルム/後援:フランス大使館/アンスティチュ・フランセ

©  2018 NORD-OUEST FILMS – STUDIO O – ARTE FRANCE CINEMA – MARS FILMS – WILD BUNCH – MAC GUFF LIGNE – ARTEMIS PRODUCTIONS – SENATOR FILM PRODUKTION


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

eleven − eight =