アート&バイブル 37:キリストの復活 16世紀の2作品


稲川保明(カトリック東京教区司祭)

フラ・バルトロメオ『復活したキリストの4人の使徒』

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この絵の作者フラ・バルトロメオ(Fra Bartolomeo, 生没年1472/75~1517。第34回も参照)はフィレンツェで活躍した画家です。フラ・アンジェリコの後輩にあたるドミニコ会士で、ラファエロの友人でもありました。そのため、その作品には、どこかラファエロの画風を思わせる色彩や表情が感じられます。聖母子とそれを囲む聖人たちという構図は「聖なる会話」でよく用いられていますが、この作品では、復活したイエス・キリストが颯爽とした姿で描かれています。真似をしたというより同じセンスを共有していたのです。

マグダラのマリアが使徒たちに墓が空であることを伝えにいく、ヨハネ20章1~18節の内容を思い起こしてみましょう。週の初めの日、朝早く、まだ暗いうちに、マグダラのマリアは墓に行きます。そして、墓から石が取りのけてあるのを見ます。シモン・ペトロのところへ、また、イエスが愛しておられたもう一人の弟子=ヨハネのところへ走って行きます。主が墓から取り去られたと聞いた彼らは、墓に向かって一緒に走っていきます。

フラ・バルトロメオ『復活したキリストの4人の使徒』(1516年、キャンバス、油彩、282×204cm、ピッティ宮殿、パラティーノ美術館所蔵)

するとヨハネのほうが速かったので、先に墓に着きます。身をかがめて墓の中をのぞくと、亜麻布が置いてあります。ただ、ヨハネは中には入りません。ペトロが着くと彼は、墓に入り、亜麻布が置いてあるのを見ます。イエスの頭を包んでいた覆いは離れた所に丸めてあります。このあと、マグダラのマリアと復活したイエスとの出会いのエピソード(「ノリ・メ・タンジェレ」)のあと、弟子たちのところへ行って、「わたしは主を見ました」と告げ、主のことばを伝えていくことになります。

 

【鑑賞のポイント】

(1)この絵の面白さはイエスの足元にあります。そこにはカリスが描かれており、もう一つのキリストの体である聖体が暗示されています。これは「ご聖体は復活されたイエスの行動的現存である」ことを表するものです。また幼子の天使たちが抱えているメダリオンにはイエスが葬られた園の墓のようすが描かれています。

(2)4人の使徒は誰でしょうか? イエスの右側にいる二人は、墓に駆けつけたペトロ(白い髪とひげ)とヨハネ(書き板・本を持っている)かもしれません。ペトロがこの絵を見ている人の方を指さしているのは、「この人々に復活を告げるために何を告げようか」とヨハネと語り合っているように見えます。左側にいるのはパウロとルカでしょうか。この二人はやはり本をもっています。後ろに立つルカがパウロの肩を抱いているところに二人の親密さが感じられます。

 

 

パオロ・ヴェロネーゼ『キリストの復活』

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この絵の作者、パオロ・ヴェロネーゼ(Paolo Veronese, 1528~88)は、ヴェネツィア派の巨匠の一人で、ティツィアーノの後に続いたティントレットと並び称される画家です。彼の作品の特徴は、色彩と、それに加えて、大胆な構図にあります。ティントレットの絵の特徴は幻想的な陰影ですが、ヴェロネーゼの画風は、壮大さや大胆さを感じさせる構図に特徴があります。この『キリストの復活』にも彼の画風がいかんなく表れています。それはマニエリスムの先駆けでもありました。

この絵についてはマタイ27章54節~28章10節を参照してみましょう。

百人隊長が、イエスが息を引き取られたのを見て、「本当に、この人は神の子だった」と言うところが印象深く残ります。それを婦人たちも遠くから見守っており、その中には、マグダラのマリア、ヤコブとヨセフの母マリア、そしてゼベダイの子らの母がいたといわれます。埋葬があり、安息日が終わって、週の初めの日の明け方に、マグダラのマリアともう一人のマリアが墓を見に行くと、大きな地震が起こります。主の天使が天から降って近寄り、石をわきへ転がし、その上に座ったときのものでした。「その姿は稲妻のように輝き、衣は雪のように白かった」とマタイは記します。

パオロ・ヴェロネーゼ『キリストの復活』(1570年、キャンバス油彩、136×104cm、ドレスデン、シュマルデギャラリー所蔵)

番兵たちは、恐ろしさのあまり震え上がり、死人のようになっている一方で、天使は婦人たちに「恐れることはない。十字架につけられたイエスを捜しているのだろうが、あの方は、ここにはおられない。かねて言われていたとおり、復活なさったのだ」と告げるのです。

 

【鑑賞のポイント】

(1)両手を広げ、空を飛翔しているようなイエスの姿に目が引き付けられます。背景にはアーモンド型の雲が描かれており、壊れた遺跡のような建物や大理石の礎石のようなものは神殿の象徴かもしれません(ヨハネ2章19節で、イエスは、神殿について「三日で建て直してみせる」と言っています)。兵士たちは恐れ慄き、逃げ惑うようなポーズです。ある者はひれ伏し、ある者は上着で目を覆い、この事実から目を背けようとしています。

(2)画面の右奥の遠景に小さく、天使が石棺の蓋を開けて、上述の二人のマリアに、イエスの姿がないことを示しています。

 


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