中島貞夫という映画監督をご存じでしょうか。一定の年齢以上の方なら、『木枯し紋次郎』シリーズや『極道の妻たち』などの映画をすぐに思い浮かべるのではないでしょうか。その中島監督が20年ぶりにメガホンをとり、時代劇を撮るというので、楽しみに足を運んでみました。
舞台は幕末の京都。貧乏長屋に住む清川多十郎(高良健吾)は、ワケありの小料理屋女将・おとよ(多部未華子)に世話を焼かれながら、怠惰な日々を過ごしています。もともとは長州でも剣の名士として知られる存在でしたが、親が残した借金から逃げるために脱藩浪人となりました。己の鬼神のような剣の強さを持て余し、大義も夢もない無為に日々を過ごしています。
一途なおとよの想いに気づきながらも、多十郎は、ひたすらに孤独であろうとします。
かつての仲間から勤皇のために剣の力で助けてほしいとの声にも耳を貸しません。
その頃、新撰組の勢いに押されている京都見廻組は面目を保つため、取り締まりを強めていました。おとよを巡り、ちょっとした喧嘩になったことで、恨みを抱いた岡っ引きからの密告によって、多十郎の存在が見廻組に知られてしまいます。
京都を不穏な空気が覆う中、勤皇を胸に腹違いの弟・数馬(木村了)が訪ねてきます。数馬に対し、京で勤皇の志士として働くより、故郷へ帰るよう多十郎は説得しますが、逆に数馬は自堕落に生きる兄を責めます。そんなやり取りの中、見廻組が急襲してきます。見廻組の急襲によって、数馬は目を負傷してしまいます。
多十郎はおとよに数馬を託し、2人が無事に京を離れるまで囮として町中を逃げ回り、追ってくる者を斬って斬って斬りまくっていきます。多十郎にとって人生最初で最後の、命を懸けた戦いが始まります。
この映画の中で、中島貞夫がいいたかったことはなんでしょうか。そこにあるのは愛です。自らの力を持て余し、あえて怠惰な暮らしをしていた多十郎が、愛する人のため、そして肉身のための愛に殉じようとする姿です。
中島貞夫は20年ぶりメガホンを撮ったちゃんばら映画について、「ちゃんばらは、日本映画の非常に大切な真心だ」といっています。84歳になる監督が最後の作品としてちゃんばら映画を撮ったわけは観ていただけると感じることができると思います。
そしてこの映画をぜひ見ていただきたいと思ったもうひとつの理由は、俳優たちの演技です。高良健吾の立ち回りシーンはもちろんのこと、見廻組の組長を演じている寺島進やほんのちょっと最後に出てくる往年の名俳優栗塚旭などの演技もひとつの見どころとなっています。
(中村恵里香)
4月12日全国一斉公開
公式ホームページ:http://tajurou.official-movie.com
出演:高良健吾、多部未華子、木村 了、永瀬正敏(特別出演) 、寺島 進
監督:中島貞夫
脚本:中島貞夫、 谷 慶子
監督補佐:熊切和嘉
製作:「多十郎殉愛記」製作委員会
制作:よしもとクリエイティブ・エージェンシー
制作プロダクション:ザフール
制作協力:東映京都撮影所
配給:東映/よしもとクリエイティブ・エージェンシー
©️『多十郎殉愛記』製作委員会