ジョット・ディ・ボンドーネ『三博士の礼拝』
稲川保明(カトリック東京教区司祭)
イタリア、パドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂には、ルネッサンスの父と呼ばれたジョット・ディ・ボンドーネ(Giotto di Bondone, 生没年1267頃~1337)の傑作が礼拝堂全体に描かれています。ジョットは、金貸しの仕事をしていた父のためにスクロヴェーニ礼拝堂を建てて、父のそれからの人生のために祈りました。そこにはマリアの両親であるヨアキムとアンナの生涯、マリアの生涯、そしてキリストの生涯が描かれています。
この『三博士の礼拝』は、「主の公現」の祭日(1月6日)のミサで朗読されるマタイ福音書2章1節~12節のエピソードに基づくものです。
イエスは、ヘロデ王の時代にユダヤのベツレヘムでお生まれになった。そのとき、占星術の学者たちが東の方からエルサレムに来て、言った。「ユダヤ人の王としてお生まれになった方は、どこにおられますか。わたしたちは東方でその方の星を見たので、拝みに来たのです。」(1節)
彼らが王の言葉を聞いて出かけると、東方で見た星が先立って進み、ついに幼子のいる場所の上に止まった。学者たちはその星を見て喜びにあふれた。家に入ってみると、幼子は母マリアと共におられた。彼らはひれ伏して幼子を拝み、宝の箱を開けて、黄金、乳香、没薬を贈り物として献げた。(9~11節)
【鑑賞のポイント】
(1)博士たちを導いた不思議な星がとても大きく、尾を引くような姿で描かれていますが、これはハレー彗星のような星がジョットの時代にも空に輝いていたのかもしれません。星という漢字が「日」と「生まれる」の組み合わせになっているように、西洋においても東洋においても、星は人の生死に関係していると受け止められています。
(2)三人の博士はそれぞれ、老年、壮年、若者という姿で描かれ、人間のすべての世代・年代を代表するものとなっています。時には三博士は白人、黒人、オリエントの人というように三大陸の代表者のように描かれることもあります。
(3)マリアは玉座のような荘厳な椅子に座っており、右側にヨゼフ、左側には博士が贈った黄金を受け取った天使の姿が描かれています。他の二人の博士たちもそれぞれ、乳香(蓋をあけている容器)と没薬(つのの形の容器)を用意しています。
(4)この絵の中にも、生き生きとした動物の姿が描かれており、ラクダの目の表情はとりわけ愛らしく、生き生きとしています。