「寝ても覚めても」


人は同じ顔を持つ人間が3人いると言われています。私的には同じ顔が3人もいるなんて嫌だなと思うのですが、もしも、以前愛した人とまったく同じ顔を持った男性と出会ったら、どうするのだろうかと考えさせられる映画に出会いました。その映画が今回ご紹介する「寝ても覚めても」です。

この映画、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で賞を取った「万引き家族」とともに出品された映画です。惜しくも賞は取れなかったのですが、愛とは何かを考えさせられる映画でしたので、ぜひ皆さんにご紹介したいと思います。

牛腸茂雄の写真展に足を運んだ泉谷朝子(唐田えりか)は、数ある写真の中で代表作双子の姉妹の写真が気にかかり、写真の前で足を止め、魅入っています。その会場にはサンダル履きで鼻歌を歌い、ふらふらと写真を見て回る鳥居麦(ばく、東出昌大)の姿がありました。

時を前後して会場を出た二人は、中学生が鳴らす爆竹の音に振り返り、目が合い命の恋に落ちます。

そんな二人のなれそめに、あるわけがないと関西人らしい突っ込みを入れる麦の遠縁・岡崎(渡辺大知)。朝子の親友・春代(伊藤沙莉)は、「絶対泣かされる」と言います。

ある夏の日、岡崎家に居候している麦の家で、花火に興じる一同をよそに、「パンを買いに行く」と言って麦は出かけますが、朝になっても帰ってきません。不安でたまらなく探しに出る朝子の元にフラッと帰ってくる麦に、朝子は何年も出会えなかった恋人に会ったように抱きつきます。麦も「俺は、何があっても、朝ちゃんのところに帰ってくるよ」と言いながら抱き返します。しかし半年後、麦は「靴を買いにいってくる」と言って出かけたまま戻りませんでした。

2年の年月が経ち、紅錦という日本酒メーカーで働く会社員丸子亮平(東出昌大)は、大阪本社から転勤したばかりです。会議後部屋を片付けていると、近所のウニミラクルという喫茶店の店員朝子がコーヒーポットをとりに来ます。

顔を見るなり、「バク?」と声をかけられ、亮平は困惑します。「ご出身は? ご兄弟は? お名前は?」と矢継ぎ早に質問を浴びせると、朝子は去っていきます。

その後、朝子は亮平を避けようとしますが、運命の糸に操られるように互いに引かれ合っていきます。詳しくは映画を観てください。運命の糸に操られ、引かれ合いながら、なかなか結ばれることができない二人の周りには、朝子のルームメイト・マヤ(山下リオ)や亮平の同僚串橋(瀬戸康史)、親友の春代が絡み合っていきます。

それから5年経ち、朝子は亮平と暮らすようになります。そして、麦がタレントになって朝子の前に現れます。ここからは観てのお楽しみです。朝子の決断はどうなるのか。同じ顔を持つ二人の男性の決断は……。

この映画を手がけた監督・濱口竜介氏は「恋に落ちる事の魔法か呪いのような不思議な力を、真に迫って描ききった恋愛小説を私は知りません」。「麦/亮平というキャラクターが非日常/日常というそれぞれの要素を象徴して思えます」。「そもそも『日常』と『非日常』をはっきり隔てることができず、明日どころか次の瞬間すらどうなるか分からないような生を、果たして生き得るものでしょうか。『寝ても覚めても』の恋人たちが生きるのは、まさにその問いなのです」と語っています。

日常と非日常、そして自分の感情を尊重できるかという監督と原作者柴崎友香氏の問いかけにどう答えていくかは私たち観る者に考えさせるものなのかもしれません。
(中村恵里香/ライター)

9月1日(土)より、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開
監督:濱口竜介/原作:柴崎友香『寝ても覚めても』(河出書房新社刊)/脚本:田中幸子、濱口竜介/音楽:tofubeats
主題歌:tofubeats「RIVER」(unBORDE/ワーナーミュージック・ジャパン)
出演:東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知(黒猫チェルシー)/仲本工事/田中美佐子

©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS
配給:ビターズ・エンド、エレファントハウス

公式ホームページ:http://netemosametemo.jp/


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